保健師としてキャリアアップをしたいと考えるのであれば、「統括保健師」に目を向けていきましょう。統括保健師とは、その名称からも分かるように保健師業界の中でリーダー的役割を担う保健師のことを指します。日本看護協会や厚生労働省も積極的な注目をするようになりましたが、まだまだその概要がつかめない保健師も多いはずです。
そこでここでは、そんな統括保健師の実際の役割や求められる資質、そして最後になるための方法について解説していきます。
1.統括保健師の役割について
統括保健師について、日本看護協会は、「自治体で、様々な部署に配置されている保健師達を組織横断的にサポートし、地域全体の健康水準の向上を図ることができる保健師」としています。つまり、統括保健師には所属組織や活動領域を超えた保健師ら全体のリーダー的役割を担うことが求められるのです。
それでは、統括保健師求められるようになった背景や実際の役割について見ていきましょう。
そもそも統括保健師が必要となった背景
保健師が行う保健活動は、母子・小児・精神・介護など専門分化が進む一方で、それらの分野横断的・総合的視点を踏まえた保健活動を十分に行えていない傾向がありました。通常、保健師の業務は個別で対応することが多いのですが、それを管理する人材がいなかったため、連携が上手くなされていなかったのです。
そして、これまでの組織体制では次長や課長クラスの管理職がそのような状況をカバーするしかありませんでした。
管理職だけでは保健活動の課題をカバーしきれない
実際のところ、管理職が保健師全体の統括を行うのには限界があります(全員が医療職でもないため)。そのため、医療職としての立場から保健活動の調性を行うことができる「統括保健師」を組織体制に組み込み、組織の活性化ひいては住民の健康水準向上に貢献することになったのです。
統括保健師が担う主な役割
それでは、具体的に統括保健師がその自治体で担う役割について詳しく見ていきましょう。
- 保健師の人材育成
- 保健師からの相談の対応、指導
- 保健師としての視点から保健師人事に関する意見具申
- 地域の健康課題や優先度の明確化
それぞれ解説していきます。
自治体に配置されている保健師の人材育成
統括保健師のメインの役割が「保健師の人材育成」です。地域の健康水準を上げるためには、保健師1人1人の能力を向上させていかなければなりません。そのため、統括保健師は研修や実技演習などを通して保健師の育成につとめていきます。
保健師からの相談の対応・指導
「行政保健師が抱えるリアルな悩み5つ!転職前に知っておこう」でご紹介しているのですが、保健師の多くは「仕事の幅が広すぎる・相談できる人がいない」という悩みを抱えています。そのため、統括保健師はそういった保健師1人1人の悩みに対応し、彼等が気持ちよく仕事を行うことができるようサポートしていくことが求められます。
保健師としての視点から保健師人事に関する意見具申
自治体が運営する保健所や保健センターには、保健師以外の職種も在籍しています。そのため、保健師以外の職種が保健師の人事権を握っていることも多いのですが、その場合どうしても、現場が求めていることとのズレが生じやすくなります。そういった状況を防ぐために、統括保健師は保健師としての視点から保健師人事に関する意見具申を行うのです。
地域の健康課題や優先度の明確化
通常、保健師業務は担当部署ごとに分かれているため、全体の健康課題や優先度が明確にしづらい状況ではあります。保健師活動において分野横断的・総合的視点が欠けていると言われる所以はそこにありました。統括保健師はそういった状況を打破するために、担当部署を超えた領域で地域の健康課題や優先度の明確化を行います。
2.統括保健師に求められる資質
統括保健師は業務を遂行する上でリーダーシップを存分に発揮していかなければなりません。自治体にいる保健師全員を統括し、彼等が気持ちよく働き続けることができるようサポートしなければならないからです。今まで個人で動くことが当たり前とされていた保健師をまとめるのは大変そうではありますが、そこには必ずやりがいもあるはずです。以下に、そんな統括保健師に求められる資質をまとめています。
- 全体を見渡せる力がある
- コミュニケーション能力がある
- フットワークが軽い
- 独自の保健師観がある
- 仲間思いであること
それぞれ詳しく見ていきましょう。
物事を俯瞰し全体を見渡せる能力
統括保健師に何より求められるのは「全体を見渡せる能力」です。職場にいる保健師全体を見渡さなければならないのは当然のこと、もちろん、地域全体の健康課題についても見ていかなければなりません。そのため必然的にマルチタスクをすることにもなりますから、1つのことに集中したいタイプの保健師には統括保健師はあまり向いていないかもしれません。
信頼関係づくりができるコミュニケーション能力
統括保健師は、他の保健師達から信頼を得なければその役割を果たすことはできません。また、統括保健師は各部署を横断して実に様々な人達と関係性を持ちながら業務を行うことになりますから、非常に高いコミュニケーション能力が必要です。
フットワークが軽いこと
統括保健師は一般の保健師よりも、様々な業務に関わり沢山の関係者と接していくことになりますから、フット―ワークの軽さは重要です。また、フットワークを軽くしておけば、他の保健師達にとって「相談しやすい」状況を作り出すことができます。
独自の保健師観を持っていること
上記に書いてあることと矛盾してしまうように思うかもしれませんが、統括保健師は「リーダー的」役割を担うからこそ、ぶれない独自の保健師観を持っていることが重要です。頑固になりすぎてもいけませんが、上に立つものは、いちいち他の人の意見に左右されるわけにはいきません。また、そのようなしっかりとした「軸」があれば、保健師達からの信頼を集めることにも繋がります。
3.統括保健師になるための方法
最後に統括保健師になるための方法について解説していきます。まず、統括保健師になるためには行政保健師としての現場経験を積んでいかなければなりません。また、統括保健師になるにあたり、特別な資格が必要なわけではあません。すでに保健師としての現場経験があるのなら、上司に統括保健師になりたい旨を伝えていきましょう。
まずは行政保健師として現場経験を積むこと
通常、保健師は「新人保健師→中堅期保健師→管理期保健師→管理職保健師」といった具合に昇進をしていくことになります。統括保健師は管理期保健師と管理職保健師の間に位置づけられる可能性が高いですから、最低でも10年の臨床経験は必要だと考えられます(所属する施設の規模にもよります)。
現場経験があるからこそ成せる業務
統括保健師は、保健師らの相談に応じたり統括を担っていったりすることを考えると、自信を持って業務にあたるには、それなりの現場経験が必要であることは容易に想像がつきます。
上司に対し統括保健師になりたい旨を伝える
どのタイミングで統括保健師になれるかは自治体の状況によっても変わりますが、いずれにせよ自分がそうなりたいと考えている旨を上司に伝える必要はあります。もしあなたに適性があれば、早速、統括保健師のような仕事を任されるかもしれませんし、日本看護協会が主催する「統括保健師人材育成プログラム」に参加させてもらえるかもしれません。
日本看護協会主催の「統括保健師人材育成プログラム」について
去年度(2015年度)から、日本看護協会は「統括保健師人材育成プログラム」を開始し、それを皮切りに「統括保健師」に注目が集まるようになったのです。統括保健師人材育成プログラムでは、上司から推薦を受けた保健師が、統括保健師に必要なスキルや心構えを身につけられるようサポートしていきます。詳しくは日本看護協会の「統括保健師人材育成プログラム」をご参照ください。
普段からリーダーシップ力をアピールしておこう!
先にも述べたように、「統括保健師人材育成プログラム」に参加するには上司の推薦が必要です。他の資格職とは違い、独自でスキルを磨くことはできないため、普段の業務においてあなたのリーダーシップ力をアピールしておくようにすると良いでしょう。
まとめ:統括保健師はこれから注目の仕事
これまでも統括保健師のような役割を担っていた保健師はいたはずですが、組織や研修体制が整っていなかったこともあり、その役割が十分に機能していなかったようです。
超高齢社会を迎えるにあたり、地域医療の充実が急務であることから、日本看護協会は統括保健師の導入に向けて本格的に動き出しました。
そのため、これからはどんどん統括保健師の活躍が見られるようになるとは思いますが、まだ始まったばかりでもあるため、1人1人の統括保健師がその道を切り開いていくことには違いないでしょう。
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