産業保健師の仕事は、禁煙指導とは切っても切れないのではないでしょうか。実際、多くの企業では産業保健師による禁煙指導教室が開催されています。しかし、ニコチン依存症の克服はそう簡単なものでもなく、個人アプローチにしても集団アプローチにしても「なかなか上手くいかない」と悩んでいる産業保健師は多いでしょう。そんな時、必ず役に立つのが「禁煙支援士」の資格です。
禁煙支援士は「ワンランク上の禁煙支援」を提供するために、日本禁煙科学会が認定いる資格であり、これまで多くの保健師や看護師が取得してきました。
このページでは、そんな禁煙支援士について資格について、その役割から資格取得方法まで詳しく解説していきます。
1.禁煙支援士とは
禁煙支援士とはその名の通り、禁煙を支援する知識・技術を持つ人のことを指します。日本では、禁煙支援士以外に、禁煙支援士以外に禁煙指導に携わる資格はありません。
巷ではニコチンパッチや禁煙パイポなどの禁煙グッズが市販売されていますが、そういったグッズだけで禁煙をすることは非常に難しいのが実態です。なぜなら、ニコチン依存症はれっきとした「病気」であり、基本的に1人で克服するのは不可能に近いからです(程度にもよりますが)。そこで、禁煙支援士は対象者に寄り添いながら、正しい知識・技術を持って無理なく禁煙できるようサポートしていくのです。
禁煙支援士は3つのレベルに分けられる
日本禁煙科学会では禁煙支援士を以下の3つのレベルに分けて育成しています。
- 初級禁煙支援士
- 禁煙支援士
- 上級禁煙支援士
資格認定希望者は原則的に、初級→中級→上級の順でステップアップしていくことが望まれます。また、それぞれの資格取得方法については、次の項で説明していきます。
個々の状況に応じた禁煙指導を行う
禁煙支援士は、対象者が「いつから喫煙しているのか」「なぜ喫煙しているのか」「喫煙被害はどの程度理解できえいるのか」を把握し、個々の状況に応じた禁煙指導を行っていきます。
喫煙者の多くは、自分が健康に害のある行為をしていることを頭では理解しています。そして「できるだけ早く辞めるにこしたことはない」ということも分かっています。禁煙支援士は、そんな状況の中でも「どうしても喫煙が辞められない」対象者に対し、彼等を否定するでも肯定するでもなく、無理のない方法で行動変容を促していきます。
一方的に禁煙を勧めるのは逆効果
禁煙指導に理解のない保健師だと、喫煙者に対し一方的に禁煙を勧めがちですが、そのような対応ではかえって逆効果なのです。場合によっては、頑なに心を閉ざされてしまうでしょう。だからこそ、禁煙指導については、禁煙支援士のような正しい知識・技術を持ったプロフェッショナルが必要なのです。
産業保健師が禁煙支援士になった際の表記について
認定者の名称については各人の職種に合ったものをつけることになっており、保健師の場合は以下のように表記されることになります。
- 初級禁煙支援保健師
- 禁煙支援士(中級)or 中級禁煙支援士
- 上級禁煙支援士
なお、混同されることが多いのですが「禁煙支援保健師」という資格があるわけではないので注意ください。あくまで、正式名称は「禁煙支援士」です。
2.産業保健師が禁煙支援士の資格取得方法とは?
禁煙支援士は、産業保健師の他にも看護師・医師など多くの医療従事者が取得していますが、資格取得について特別な条件はありません。「禁煙を広めたい」「禁煙したい人を支援したい」と願う日戸であれば、誰でも取得することができます。
なお、先ほども述べたように禁煙支援士は「初級」「中級」「上級」に分けられており、それぞれ取得に必要な条件は異なります。
まずは「日本禁煙科学会」の会員になる
どのレベルのコースを受講するにしても、まずは日本禁煙科学会の会員になる必要があります(日本禁煙科学会の入会案内はこちら)。
入会案内のページにある「日本禁煙科学会入会申し込みフォーム」から入会申し込みを行い、科学会にて入会審査が行われた後、振込み等の案内メールが届きます。なお、入会金については入会金5000円と年会費5000円の計10000円がかかります(学生会員は入会金・年会費共に無料です)。
科学会で入金が確認された後、正式に会員となります。
初級禁煙支援士の資格取得条件
初級禁煙支援士の認定条件は以下の通りです。
- 講習会等参加点「2点」を取得していること
- 禁煙支援士筆記試験に合格していること
禁煙支援士の認定については(レベルに限らず)、日本禁煙科学会認定全国禁煙アドバイザー育成講習会等に参加して所定の参加店を取得する必要があります。なお、参加店は過去5年間に取得したもののみ有効です。
中級禁煙支援士の資格取得条件
中級禁煙支援士の認定条件は以下の通りです。
- 講習会等参加点「5点」を取得していること
- 実績レポート店5点相当の禁煙支援実績を申請し、それがレポート点として認められること
- 禁煙支援士筆記試験に合格していること
中級になると、初級の時にはなかった「実績レポート」の申請が必要になります。
実績レポートについて
実績レポートは、それぞれの職種にあったレポートを作成することが求められるため、産業保健師の場合、企業での禁煙指導の実績を提出します。禁煙指導の結果の成功・不成功は問われないため、これまでの事例を通じて自身が学んだことを記載していくと良いようです。
実績レポートに関する詳しい内容は「初級禁煙支援士・禁煙支援士 認定取得の手引き」を参照ください。
上級禁煙支援士の資格取得条件
中級禁煙支援士の認定条件は以下の通りです。
- 中級禁煙支援士取得者であること
- 過去5年間で講習会等、参加点「12点」以上を取得していること
- 教育研究点30ポイント以上を取得していること
上級ともなると、実践力に加え研究者としてのスキルも求められるようにあります。
教育研究点について
教育研究点を取得するには、同学会の学会誌「禁煙科学」への投稿や、学会での発表が必要です。なお、教育研究店の有効期限はないため、時間をかけながら取得していくことも可能です。その他、教育研究店については様々な取り決めがありますので、詳しくは「上級禁煙支援士認定 申請の手引き・申請書類の提出」を確認してください。
取得条件を満たした後、申請へ
上記に挙げた取得条件を満たした後、学会の方へ申請を行います。なお、初級禁煙支援士については随時申請が受け付けられていますが、中級は2月と8月、上級は4月と10月といったように、機関が限定されていますので注意してください。
なお、禁煙支援士の資格認定期間は「5年」であり、その後は申請手続きが必要です。
3.産業保健師が禁煙支援士の資格を取得するメリット
最後に、産業保健師が禁煙支援士の資格を取得するメリットについて見ていきましょう。産業保健師の場合、他のどの保健師(または看護師)よりも禁煙指導に接する機会が多いため、すぐに禁煙支援士の資格を活かすことができ、確実に仕事に対する満足度は上がるはずです。また、禁煙指導における実績が残れば、社内で評価され、さらに一目置かれる存在となることでしょう。
仕事への満足度が上がる
産業保健師は基本的に「一次予防」に携わるため、自分がやったことに対する成果が見えづらいのですが、この資格の取得によって禁煙指導が上手くいくようになり、また社員からも感謝される機会が増えれば、今よりも仕事の満足度を上げることができます。
産業保健師の仕事は、下手するとルーチーン化しがちであり、またそれは「やりがいの低下」にも繋がってしまいます。そうした事態を避けるためにも、禁煙支援士の資格取得は有効かもしれません。
実績が残れば社内での評価が上がる
禁煙教室や個人面談で、禁煙指導士のスキルが活かされ、これまでよりも多くの禁煙成功者が出れば、産業保健師としての社内評価は確実に上がります。
産業保健師は、ただでさえ企業の中で「何をやっているか分かりづらい」と思われることが多く、また評価される機会も少ない職種です。そのため、禁煙指導の「分かりやすい」実績を残すことができれば、あなたのスキルアップだけではなくキャリアアップにも繋がって」いくのではないでしょうか。
まとめ:産業保健師による禁煙指導の需要は高い
最近では、自主的に禁煙をする人が増えてきたとはいえ、まだまだ企業で働くサラリーマンには喫煙者が多いのが実態です。そのため、今後も産業保健師による禁煙指導は需要が高まるばかりでしょう。
また、禁煙指導士として社内で活躍できれば、必ずあなたの社内での評価はアップし次のステージを導いてくれるはずですから、これを機会にぜひ取得を検討してみてください。
<この記事が保健師の方のお役に立てたらシェアお願いします。>