最近は、どの企業の産業保健師も、メンタルヘルスの問題を抱える社員への対応が、重要な役割の1つになっているのではないでしょうか。
ここでは、現役産業保健師の私が、対応してきた事例とその後の経過について、いくつかのケースをご紹介致します。
事例1.適応障害を抱えた社員への産業保健師の対応
事例2.うつ病を抱えた社員への産業保健師の対応
事例3.統合失調症を抱えた社員への産業保健師の対応
事例4.抑うつ状態の社員への産業保健師の対応
まとめ
事例1.適応障害を抱えた社員への産業保健師の対応
- 性別:女性
- 年齢:40代
- 診断名:適応障害
この女性社員は1週間前から欠勤が続いており、対応に困っているので話を聞いてほしいと彼女の上司から産業保健師の方へ相談がありました。
本人より話を聞くと、1ヶ月前に部署を異動したところ不明な部分が多く、前任者や周囲の人に相談するも、誰からも真面目に取り合ってもらえず、自分一人で全部を処理しようとしたところ、残業がかさみ、体調不良を起こしてしまったとの事でした。
体調不良の原因は繁忙に加えて、信頼していた(異動部署の)前任者の仕事の雑さが分かった事、上司・同僚に相談しても協力してくれない事が重なって精神的にとても疲労しているご様子でした。
精神的な疲労により食事は食べられず、睡眠も1~2時間程度しか摂れていない状況でした。
産業保健師としての対応:早急に受診を勧める
まず、ご本人の体調を伺い、日常生活がままならないご様子だったので、産業保健師として早急に病院を受診する事をお勧めしました。
またその際、病気休職として会社へ配慮してもらう為にも、主治医より休職に伴う診断書を発行してもらう必要性を説明しました。
初め、その女性社員は納得できない様子でしたが、今のご本人の状況を客観的に説明し、理解していただきました。そして、主治医の方から「適応障害」と診断されました。
女性社員が休職してからは1ヶ月毎に1回ずつ、電話面談で体調確認を続けました。
女性社員の「上司への不信感」という問題への対応も考える
この件に関しては本人が直属の上司に対して不信感を抱いていたので、その1つ上の上司とともに、産業保健師として対応策を考え検討していきました。
その後、4ヶ月の休職を経て、主治医より復職の許可が出て、本人も希望したので、産業医面談を経て復職する事になりました。
その後の経過について
女性社員が復職してからは、休職前とは違う部署へ異動でき、そこで以前より知っている職員の方々と一緒に仕事ができて、自分のペースでお仕事をされ、元気な様子で働いていらっしゃいます。
通勤が遠くなってしまったのですが、「あの時のしんどさに比べれば全然大丈夫です。」と笑顔で話していらっしゃいました。
事例2.うつ病を抱えた社員への産業保健師の対応
- 性別:男性
- 年齢:20代
- 診断名:うつ病
次に紹介する男性社員は、仕事でのミスが重なり、休みがちになったままうつ病にて休職を開始しました。
2年間の休職を経て、金銭的にも厳しいという事で復職を希望されました。
ただ病状はというと、当初飲んでいた抗不安薬と睡眠薬は効果を感じられず、半年ほど前から内服していないという事でした。
家族に病気のため休業している事は伝えておらず、一人暮らしで療養されていましたが、仕事をしていないせいか、昼夜逆転生活が続いていました。
このままでの復職は心配な面が多いということで、家族のサポートを受けられる環境という事で実家に近い部署へ異動し、復職となりました。
産業保健師としての対応:2週間に1回ペースで体調を確認
男性社員が復職してからは遠方の営業所のため、産業保健師としてメールと電話でやり取りをし、2週間に1回ペースで体調を確認しました。
心配していた昼夜逆転も仕事を再開してからは徐々にリズムも戻っていきました。
4ヶ月を経過したところで、上司から5日間出社していないという話を聞きました。本人へ産業保健師から連絡を取ると、体調を崩して休んでしまったのがきっかけで、仕事へ行きづらくなってしまったとの事でした。
そのため、メンタルクリニックの再受診を勧め、会社に出社してからはしばらくの間、頻繁に体調の確認を行いました。
その後の経過
産業保健師がメンタルクリニックの再受診を勧めた後、その男性社員は定期的にメンタルクリニックを通院するようになりました。
そして効果が感じられないと自己中断していた薬も再開してからは体調も良くなり、周囲に支えられながら順調に出社しています。
事例3.統合失調症を抱えた社員への産業保健師の対応
- 性別:男性
- 年齢:30代
- 診断名:統合失調症
この男性社員は、幻聴、幻覚が徐々に見られて、独語が増えてきた事で上司が心配して産業保健師の方へ相談がありました。
早速、メンタルクリニックへの受診を促したところ、この男性社員は「統合失調症」と診断されました。
主治医からはしばらくの間、休職が必要と言われ、併せてンタルクリニックでの治療が開始されました。
その後、幻覚・幻聴などの症状が消失したため復職する事になりました。
産業保健師としての対応:本人の希望を総務へ報告
本人、上司、総務、産業保健スタッフで検討した結果、自宅近くの営業所で家族のサポートを受けつつ、治療を進めていくことになりました。
1年間の内勤業務を経た後、本人から現場作業を行いたいという旨の申し出がありました。産業医から主治医へ許可依頼をし、許可が出ました。
しかし総務からは以前の症状が再発する事を考えると(他者と関わる必要が生じる)現場作業は難しいのではないかという話があり、許可がおりませんでした。
本人、上長、産業医の意見を再度集約し、現在は治療により症状も安定しており、本人も望んでいて、主治医も許可している旨をもう一度総務へ報告しました。関係者の意見を再度確認し、本人に直接会って確認した上で、現場作業の許可がおりました。
その後の経過
この男性社員は、統合失調症の治療にも積極的で、元来まじめな性格のため仕事もきちんとこなし、現在も徐々に業務範囲を広げて活躍されています。
事例4.抑うつ状態の社員への産業保健師の対応
- 性別:女性
- 年齢:30代
- 診断名:抑うつ状態
この女性写真は半年前より生理痛のため休みがちで、対応に困っていると上司より産業保健師の方へ相談がありました。
その後、産業医面談を実施したところ、生理痛だけでなく、不眠が続いていることが分かり「抑うつ状態」であると診断されました。
そして、不眠などの症状を解消するためにもメンタルクリニックへの通院を勧めたところ、彼女は1ヶ月間休職して療養に集中することになりました。
その後、薬の効果もあり、復職する事になりました。
産業保健師としての対応:定期的に上司と本人から話を聞く
復職はできましたが、やはり生理痛がしんどいとの事で、休みがちだったようなので、頻繁に話を聞き、あまりにも酷いようであれば婦人科へ行くように勧めました。
本人は大丈夫と言いますが、産業保健師から、女性社員の上司に話を聞くと、やはり彼女は休みがちで遅刻や早退も多いと聞き、そのギャップを確認するためにも定期的に本人と上司から話を聞き続けました。
その後の経過
相変わらず、この女性社員は生理痛で休む事はありますが、その日数自体は減少傾向になっています。
復職当初は顔色も声色も悪かったのですが、最近は元気な様子で話をされています。
まとめ
病院は医療スタッフ対患者の関係だけで最終決定権は本人と家族にあります。しかし、産業保健は本人の意見だけでは決められない部分がたくさんあります。病状に関することは主治医と本人間で、会社内での業務内容や就業形態に関しては主治医の意見を元に上司、総務、人事が本人と相談しながら決めていきます。
上手くいけばいいのですが、その両者間には大なり小なりギャップが生まれ、理想通りに行かないことが多いのも現実です。
産業保健師は「翻訳家」として存在している
産業医と産業保健師は主治医と会社の架け橋、あるいは翻訳家として存在していると思っています。両者間のつなぎ目として存在しているので、病気内容や治療状況だけでなく、人間同士ですので関係者の性格やこれまでの経験を踏まえて、話が進んでいく間に入り、必要な事と不必要な事を分けて考えていくのが産業保健スタッフの仕事だと思います。
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