地域住民や高齢者と関わることが多い保健師にぜひ注目していただきたい資格の1つが「骨粗鬆症マネージャー」です。あまり聞き慣れない保健師も多いかもしれませんが、医療関係者の中でも年々注目度が高まってきており2016年4月の時点で約1100名のメディカルスタッフが認定を受けています。なお、その約半数は看護師・保健師が占めています。
ここでは、そんな骨粗鬆症マネージャーについて、実際の役割や資格取得方法まで詳しく解説していきます。
1.骨粗鬆症マネージャーとは?
骨粗鬆症マネージャーとは骨粗鬆症の予防や治療について正しい知識を持ち、診療の場においてコーディネーター的な役割を果たす人のことを指します。医師・看護師・保健師などといったメディカルスタッフが骨粗鬆症予防や治療の水準を向上させることを目的として、一般社団法人日本骨粗鬆症学会によって策定されました。
骨粗鬆症リエゾンサービスの役割を担う
リエゾンとは「連絡係」のことを言い、いわゆる「コーディネーター」のことを指します。そもそも骨粗鬆症マネージャーは、この骨粗鬆症リエゾンサービスを普及させるために策定されたものなのです。なお、リエゾンサービスの具体的な内容としては以下の通りです。
- 骨折リスク評価
- 新たな骨折の防止
- 脆弱性骨折の予防
骨粗鬆症マネージャーは上記の項目に対し、専門的な知識を持って的確に対応していきます。
高齢者の骨折を効果的に予防する
我が国において、高齢者の大腿骨頸部骨折や四肢骨折発生率は上昇し続けていると言われています。その背景には、骨粗鬆症治療が適切になされていなかったことが問題として挙げられています。しかし高齢者の骨折を効果的に予防していくためには、医師の力だけでは限界があります。
医師だけの力では高齢者の骨折は防げない
医師は骨折してしまった高齢者へ手術などを通して完治させることはできますが、骨粗鬆症の予防・治療についてまでは手が及ばないことも往々にしてあります。だからこそ、リエゾンサービスを提供できる骨粗鬆症マネージャーの役割が重要視されているのです。
多職種と連携して骨粗鬆症の予防法と治療法を普及
骨粗鬆症の予防・治療は、普段の生活週間にも関わってきます。つまり、1人1人が当事者意識を持てるよう促していかなければならず、そのために他職種と連携しながら普及活動などを行っていくのです。
具体的には、高齢者の生活に普段から密に携わる薬剤師や歯科医また病院関係者らと一緒に、様々な媒体を通じて普及活動などを行っていきます。
健康格差の縮小と健康寿命の延伸
骨粗鬆症マネージャーには、健康格差を縮小させ健康寿命を延伸させる役割があります。骨粗鬆症による骨折が引き金となってそこから先はずっと寝たきり状態になってしまう人もいれば、90歳になっても足腰がピンピンした状態の人もいます。せっかく生きているのでれば生涯現役で元気にいられることを誰しもが願います。そして、そのサポートができるのが「骨粗鬆症マネージャー」なのです。
2.保健師が骨粗鬆症マネージャーの資格を取得する方法
保健師が骨粗鬆症マネージャーの資格を取得するためには以下の要件を満たす必要があります。なお、必要資格については、保健師・看護師・助産師の資格があれば無条件に認められます。
- 日本骨粗鬆症学会会員であること
- 過去3年以内に骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースを受講している
- 過去3年以内に同学会の学術集会に参加していること
- 骨粗鬆症マネージャー認定試験に合格していること
以下に、保健師が骨粗鬆症マネージャーの資格を取得するまでの道のりについて順を追って説明していきます。
日本骨粗鬆症学会へ入会する
まずは日本骨粗鬆症学会へ入会する必要があります。看護師、保健師、助産師などの資格保有者は公式ホームページの入会申し込みフォームから申し込みを行い、年度会費を入金すれば入会が完了します。なお、会費は年額6000円となります。なお、学会入会者には事務局から随時、日本骨粗鬆症学会雑誌及び学会抄録号が特典として送られます。
入会申し込みフォーム→日本骨粗鬆症学会(入会のご案内)
日本骨粗鬆症学会の学術集会に参加する
日本骨粗鬆症学会では毎年定期的に、学術集会が行われています。骨粗鬆症マネージャーになるためには最低でも1回は学術集会に参加する必要があります。その際の学術集会参加証が、今後、認定試験を受けるにあたっての必要書類となります。
また、これまでは学術集会の参加は必須ではなかったのですが2017年度から制度が変わり必須となったため、注意してください。
骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースを受講する
日本骨粗鬆症学会が主催する骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースを受講します。このコースはこれまで(2017年2月現在)10回にわたり行われており、日程については毎年変動があるため、各自公式ホームページをチェックする必要があります。場所は都内のホテルや大学の講義室を貸し切って行われます。
なお、費用に関しては学会会員の場合は3000円で受講することができます。
骨粗鬆症に関する基礎知識や最先端の治療方法を学ぶ
12時30分~16時までの間に、骨粗鬆症に関する基礎知識や最先端の治療方法、また運動療法・食事療法・薬物療法に至るまで、骨粗鬆症マネージャーとして活躍するにあたり必要な知識・技術を徹底的に学んでいきます。
講師陣は各業界のプロフェッショナル達が揃っているため、専門的かつ実践的な内容を学ぶことができます。
骨粗鬆症マネージャー制度へ認定申請する
申請方法としてはWEB申請か書類郵送申請か選択することができます。なお、WEB申請か書類郵送申請とでは必要書類も異なりますので、間違いのないよう注意ください。
WEB申請の場合
WEB申請の場合は以下の書類を準備する必要があります。
- 保健師国家資格の認定証(保健師がなければ看護師・助産師でも可)
- 学術集会参加証
- 施設長または業務管理者の推薦文or骨粗鬆症に関わった経験及び豊富について記載した400文字程度の自薦文
上記の書類をスキャナしてpdf化し、申請内容を記入後、所定のアドレスへ送信すれば終了します。
書類郵送申請の場合
書類郵送申請の場合は上記の書類に加え、必要事項を記入した申請書(所定のもの)を沿えて、規定の住所に郵送します。なお、同学会は極力、WEB申請で済ませるようホームページ上で呼び掛けています。
申請後は審査料を納付
申請後、書類に不備がなければ同学会の事務局から審査料納付依頼が郵送されてきます。なお、その際に支払う金額は審査料の5000円と認定登録料の15000円です。
さらに振込みが確認された後、骨粗鬆症マネージャー認定試験の受験票が送られてきます。
骨粗鬆症マネージャー認定試験に合格する
認定試験は年に1回行われます(2017年度は11月~12月頃に実施予定)。試験内容はマークシート形式により55問出され、制限時間は90分です。試験会場は都内に設置されます。
試験対策について
試験対策については、骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースの講義内容を復習し、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」という教材を参考にする必要があります。また、会員限定で練習問題もホームページ上で確認することができます。
資格の有効期限は5年
なお、骨粗鬆症マネージャーの資格の有効期限は5年です。更新を希望する場合には、学会が定めた必要単位を取得し、更新手続きを取る必要があります。なお、その際にかかる費用は15000円です。
3.保健師が骨粗鬆症マネージャーになるメリット
保健師が骨粗鬆症マネージャーになった際のメリットは以下の通りです。
- 地域のリーダー的役割を担うことができる
- 骨粗鬆症に関する知識を深めることができる
- 骨粗鬆症に関する企画を打ち出すことができる
この資格の取得によって一番メリットが得られるのは、やはり「行政保健師」でしょう。行政保健師は他の保健師よりも地域の高齢者とダイレクトに接することが多いため、ここまで学んだことを活かす機会が多いです。また、産業保健師の場合も健康教室で活用するなどのメリットを得ることができます。
地域のリーダー的役割を担うことができる
骨粗鬆症マネージャーとして活躍することで、地域のリーダー的役割を担うことになります。なぜなら、地域に暮らす高齢者の骨折を予防し、いつまでも元気でいられる高齢者を増やしていくことは、日本のこれからの医療を支えていく上で非常に重要なポイントだからです。
普段から、大勢の地域に暮らす高齢者を相手にしている行政保健師であれば、それは尚更のことでしょう。
骨粗鬆症に関する知識を深めることができる
骨粗鬆症マネージャーになることで、必然的に骨粗鬆症に関する知識を深めることができます。行政保健師のように高齢者に接する機会がそこまでなくても、骨粗鬆症に関する知識を持っておくことは、保健師としてやっていく上で必ずプラスになります。
医療関係者である限り取得して損はない
例えば学校保健師であれば、若い世代へ骨粗鬆症の恐ろしさを伝え無茶なダイエットなどを行わないよう指導することもできます。また産業保健師であれば、親の介護を行っている従業員へのアドバイスにも繋げることができます。つまり、医療関係者として働くかぎり、取得しておいて絶対に損はないのです。
骨粗鬆症に関する企画を打ち出すことができる
骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースなどで得た知識・情報を利用して、骨粗鬆症に関する企画を打ち出すことができます。行政保健師であれば地域住民への無料講座に活かすことができますし、産業保健師であれば従業員への健康教室に活かすことができます。
現場のプロから得た最新の情報を提供することは必ず対象者にとってプラスとなりますので、これを活かさない手はないでしょう。
まとめ:日本の未来を明るくする資格!
「転倒して骨折するまで元気だったのに、骨折してからというもの廃用症候群が進み認知症になってしまった」というケースは今のところ後を絶ちません。しかしこれからの超高齢社会を乗り切っていくためには、できるだけ多くの高齢者が生涯現役で元気でい続けられるようサポートしていくことが肝心です。
そのためには、1人でも多くの高齢者が「骨折を機に寝たきり状態になってしまった」という状況になることを回避することが大切です。つまり、骨粗鬆症マネージャーは日本の未来を明るくする鍵を握っている資格だと言うことができるのです。
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