産業保健看護専門家制度とは、日本産業衛生学会 産業看護部会が産業看護分野の更なる発展を目指して創設した、産業看護職の新しい専門制度のことを指します。なお、同制度は平成27年(2015)年9月まで「登録産業看護師」として運営されており、まだこちらの名称の方が馴染のある保健師も少なくないでしょう。
以下に詳しく説明していきますが、この専門制度では質の高いケアが提供できる産業保健師を育成するために随時研修会を開催し、「産業保健看護専門家」「上級専門家」の認定を行っています。
今後、産業保健師として真剣にキャリアを積んでいきたいと考えるのであれば、産業保健看護専門家制度について知っておいて損はありません。それでは、詳しく見ていきましょう。
1.産業保健看護専門家制度の概要
産業保健看護専門家制度の概要は以下の通りです(2015年1月時点)。
準備講座(任意)→登録者試験→合格→登録者→専門家試験(口頭)→合格→専門家→上級専門家審査(書類審査)→合格→上級専門家
この制度では「産業保健看護登録者」「産業保健看護専門家」「産業保健看護上級専門家」の3つの段階に分かれており、研修や試験を経て徐々にステップアップしていくことができます。
STEP1:まずは「産業保健看護専門家制度登録者」になる
業保健看護専門家制度を活用するにあたっては、まず「産業保健看護専門家制度登録者」になる必要があります(具体的な登録方法については次の項に記載してあります)。
「産業保健看護専門家制度登録者」になれば、専門家→上級専門家へとステップアップしていくために必要な単位を取得できる研修に参加することが可能となります。
登録産業保健師からの以降について
なお、旧制度である登録産業保健師の方や2015年3月までに産業看護継続教育システムにおける基礎コースを修了した方は新制度の「産業保健看護専門家制度登録者」か「産業保健看護専門家」かのいずれかに登録することができます。
STEP2:基礎研修を受講し「産業保健看護専門家」になる
産業保健看護専門家になるための条件は以下の通りです。
- 基礎研修を50単位履修していること
- 「産業保健看護専門家制度登録者」となってから5年以内であること
- 産業保健看護に係る研究の実績があること
- 正会員として、学会活動を行っていること
- 産業保健看護に係る社会貢献を行っていること
上記の条件を満たし、研修指導者である「産業保健看護上級専門家」から、認定試験を受けるにふさわしい能力があると認められる必要があります。
専門家になるための基礎研修について
基礎研修は「前期」「後期」に分かれており、3日間に渡るプログラムで構成されています。なお、2016年度の基礎研修は前期が平成28年8月25日~27日に行われ、後期は平成29年2月16日~18日に開催される予定です(いずれも開催地は東京都)。また、この基礎研修については「産業保健専門家制度登録者」でない一般の保健師も受講は可能です。
基礎研修のプログラム内容
以下に、実際の基礎研修で行われているプログラムの内容を一部抜粋してあります。
- 快適職場の形成及び福利厚生施設の衛生管理
- メンタルヘルス対策
- 職場復帰支援
- 労働衛生教育
- 作業環境管理概論
- 安全リスクマネジメント
- 快適職場の形成及び福利厚生施設の衛生管理
- 労働安全衛生マネジメントシステム
- 産業保健体制の構築
- 産業保健計画の立て 方と評価
講師陣は日本産業衛生学会理事及び看護部会幹事を中心に構成されており、受講生は実践的かつ専門的な産業保健看護の知識について学ぶことができます。
STEP3:書類審査に通過し「産業保健看護上級専門家」へ
産業保健看護専門家制度の最高峰の資格である「産業保健看護上級専門家」になるためには、書類審査に通過しなければなりません。ここまでくれば、自身を持って産業保健のスペシャリストになれたと言っても過言ではありません。
なお、産業保健看護専門家の更新時は書類審査のみとなりますが、上級専門家の場合は研究論文を1本提出するか、社会貢献活動報告のどちらかが必要です。
2.産業保健看護専門家制度へ登録するには
上記にも述べた通り産業保健看護制度を利用するには、まず「産業保健看護登録者」になる必要があります。登録者にならなくともこの制度を活用することはできますが、広い視野で考えるとやはり登録者になっておくにこしたことはないでしょう(キャリアアップを考えているのであれば特に)。それでは、「産業保健看護登録者」になるための具体的な方法について解説していきます。
11月になったら公式ホームページで募集要項を確認する
産業保健看護登録者になるために必要な登録者認定試験の募集要項は、11月頃に(産業保健看護専門家制度委員会の公式ホームページ)に掲載されているようです。
なお、2017年1月までに登録者認定試験は2回開催されており、2016年は11月17日に公式ホームページ上で募集要項が掲載されているため、どんなに遅くても11月中旬には確認ししておくようにしましょう。
また、最終的に産業保健看護登録者にいたるまでには計40000円の費用がかかります(内訳は、登録料が20000円・審査料が10000円・試験料が10000円)。
必要書類を揃え事務局へ郵送
募集要項を確認後、以下に記載してある必要書類を揃えて事務局へ郵送し、認定試験受験の申請を行ってください。
- 受験資格審査・受験申請書
- 履歴書
- 保健師免許証の写し(看護師の場合は保健師免許証の写し)
- 審査及び受験手数料(手数料10,000円+消費税)受領証(写)
なお、受験に必要な臨床経験年数については特に定められていません。保健師資格保有者(看護師資格のみで可)であれば誰でも受験することができます。
1月に行われる認定試験を受験する
試験の日程については、第1回(2016年)・第2回(2017年)共に1月の第2週の日曜日に行われているため、2018年以降も同様の日程で開催されることが予想されます。試験会場は東京工科大学蒲田キャンパスで、4 肢及び5肢から1 ~2個の正解を選択するマークシート式の問題が出されます(所要時間100分)。
認定試験の出題基準について
2017年の認定試験の募集要項によれば、試験の出題基準については以下のようになっています。
- 公衆衛生看護学概論
- 公衆衛生看護学方法論
- 対象別公衆衛生看護活動論
- 産業保健
- 学校保健
- 健康危機管理
- 公衆衛生看護管理論
- 疫学
- 保健統計
- 保健医療福祉行政論
出相割合ついては、産業保健と保健統計が30%ずつ占めており、その他は5~15%程度となっています。また、標準参考書としては「中央労働災害防止協会 (編集) 労働衛生のしおり」「厚生労働統計協会 国民衛生の動向」の2点が挙げられています。
すでに登録者となっている保健師から情報収集しよう
2017年1月時点では、まだ歴史の浅い認定試験であるため試験の難易度や合格率等についての情報はほとんどありません。そのため、この試験を受ける保健師の方は、すでに登録者となっている保健師らから直接情報を集めることをオススメします。
3.産業保健看護専門家制度を利用するメリットとは?
保健師が産業保健看護専門家制度を利用するメリットは以下の2点です。
- 産業保健師として確実にスキルアップができる
- 産業保健師への転職や就職が有利になる
まだまだ発展途上である産業保健分野において、確実にスキルアップすることができる機会に恵まれるのは、最大のメリットだと言えるでしょう。また、産業保健師の実力が把握できる資格は数が知れているため、このような希少価値のある資格は転職に有利になること間違いなしでしょう。
産業保健師として確実にスキルアップができる
専門家や上級専門家になるための基礎研修では、産業保健分野における座学だけではなく実用的な技術も学ぶことができるため、産業保健師は確実にスキルアップすることができます。また、現役の産業保健師であれば、このような研修は普段の業務で抱える疑問などを払拭する機会にもなるでしょう。
全国の産業保健師と交流できる
産業保健看護専門家制度の研修や学会には全国から産業保健師が集まるため、その人達と交流を広げ情報交換し合うこともできます。
産業保健師は1~2人しか配置されていないことが多く、自身の悩み事やストレスを1人で抱え込みバーンアウトしてしまうケースも少なくありません。だからこそ、こういった交流の機会は大きなメリットとなるのです。
産業保健師への転職や就職が有利になる
「産業保健看護専門家」や「産業保健看護上級専門家」ともなれば、産業保健師への転職や就職が有利になることは間違いないでしょう。なぜなら、採用する企業側としては産業保健師に対し「即戦力」となることを求めているからです。これまでの臨床経験に加えこのような価値の高い資格保有者となれば、企業としては否が応でもその保健師を評価せざるをえません。
まとめ:産業保健師は積極的にスキルアップしていこう!
厚生労働省がストレスチェックシートの導入を義務化したことからも分かるように、世間では産業保健に関する注目が年々高まりつづけています(ストレスチェックシートについては「産業保健師の大切な仕事!ストレスチェックの活用ついてポイント3つ」を参照ください)。そして、そんな時代だからこそ産業保健師はよりスキルアップすることが求められているのです。
産業保健看護専門家制度の資格は費用も労力もそれなりにはかかりますが、スキルアップは保障されていますので、これを機にぜひ興味を持ってみてください。
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