近年、企業が行う健康管理が重要視されています。
その要因としては、
- 「うつ病」と診断される社員の増加
- 行き過ぎた長時間労働による心身の弊害
など、企業全体で取り組まなければならない健康問題が浮上していることが挙げられます。
そして、こうした健康問題に取り組む中心的存在が「産業保健師」です。
そうは言われても、実際にどのような役割を果たしているのか見当がつきづらい人もいるでしょう。
そこでこのページでは、産業保健師の「役割」に焦点を当て、詳しく解説していきます。
1.健康管理を行う役割を担う
産業保健師の役割として一番に挙げられるのが、健康診断の実施や保健指導などを含む「社員の健康管理」です。
最低年に1回、社員全体の健康診断を実施
企業では、最低年に1回、社員全体の健康診断を実施しています。
中には健診を外注しているケースもありますが、健診を自社で行っている企業の場合は、健診の準備~実施~健診結果の処理までの一連の流れを全て産業保健師が行います。
健診の準備 | ・日程調整 ・健診の案内 |
健診の実施 | ・採血 ・心電図計測など |
健診の結果処理 | ・データ確認して本人に渡す |
また、健診を外部の医療機関に委託している場合は、データ確認をして、再検査や医療機関受診が必要かどうかを医師とともに判断していきます。
健診結果を元に特定保健指導を行う
産業保健師は健診結果をもとに、生活習慣病のリスクが高い社員を対象に疾病予防の意識付け・食事指導・運動指導などの特定保健指導を行います。
また必要とあれば、特定保健指導以外にも保健指導をしていきます。
特に若年層である40歳未満へも体重指導をしていくことで、40歳以降になった時の病気の発症率を下げることが期待できます。
ポイント!
なお、特定保健指導は、生活習慣病を引き起こす要因と考えられているメタボリックシンドロームの予防と解消を目的としており、BMIと内臓脂肪の目安となる腹囲・血圧・脂質・血糖・喫煙歴を判定基準とします。
禁煙指導を行うこともある
企業の中には、産業保健師が禁煙指導を積極的に行っているところも多いです。
なぜなら、生活習慣病だけでなく、ガンや血液異常などの全身への影響や、周囲への受動喫煙が問題となっているためです。
必要に応じ、受診推奨する
健診結果をもとに、医療機関への受診指示を医師が出したにもかかわらず、受診せずに放置してしまう社員が多い現状があります。
そういった社員に対し、産業保健師は病状の重症化予防・病気の早期発見・早期治療を目的に受診勧奨を行います。
また、医療機関への受診指示を出された本人への説明を行いつつ、所属長への通知をして受診できるよう業務負担や拘束時間を考慮するなどの職場環境を整えるように指導していきます。
社員のメンタルケアも重要な役割
昨今、メンタルケアが必要な社員が増え続けていることから、企業においてストレスチェック制度が義務化されました(詳しくは「産業保健師の大切な仕事!ストレスチェックの活用ついてポイント3つ」を参照ください)。
こういった背景があり、メンタルケアも産業保健師の重要な役割の1つです。
そのため、産業保健師は日々、メンタルケアが必要な社員との個人面談などを行っています。また、産業保健師だけで対応が困難な場合は、産業医と連携しながら対応にあたっていきます。
休職中の社員やリハビリ出勤中の社員にも関わっていく
産業保健師は、すでにうつ病などで休職している社員やリハビリ出勤をしている社員へ、産業医・人事部・所属長と連携をとりつつ面談を行い、関わっていきます。
2.安全な職場を提供する役割を担う
産業保健師の役割として、社員にとって安全な職場を提供することも含まれます。
以下で詳細について見ていきましょう。
産業医や衛生管理者と共に社内巡視を行う
産業保健師は、社員が安全で衛生的に、病気や怪我が発生しない環境で働くことができているかを産業医や衛生管理者と共に社内巡視します。
具体的には、以下のような内容について確認を行っていきます。
環境を確認 | ・施設や工場の設備 ・道具が安全に使用されているか |
時間や人的な環境を確認 | ・労働時間は適切か ・スタッフ人数は十分か |
産業保健師が社内巡視を行うことで、休職明けやリハビリ出勤している社員の実際の勤務中の様子を確認することができ、それによりサポート内容を変えることができます。
健康教育で社員が「安全な環境」を作れるようサポート
いくら安全な環境を提供するのが産業保健師の役割だと言っても、実践レベルでそれを実施していくのは社員達です。
そのため、産業保健師は、「講義」や「社内誌」などを通し、社員に対し健康教育を行っていきます。
ポイント!
そもそも健康な社員は、病気や健康への知識や関心がない人が多いため、その人々へ向けて分かりやすく健康の大切さを教えていくことが大切です。
産業医と連携して過重労働対策を行う
国が会社に対して行っている過重労働対策については、以下の表の通りです。
労働時間が月に80時間以上の社員 | 産業医との面談が努力義務 |
労働時間が月に100時間以上の社員 | 産業医との面談が義務 |
産業保健師は、上記のような社員達が産業医の面談を受けられるよう手配したり、必要に応じて就業制限や職場場所の変更を検討したりして、安全な職場作りを目指していきます。
安全衛生委員会に参加する
どの会社にも月に1回、労働環境や社員の健康について話し合いを行う「安全衛生委員会」の存在があります。
多くの場合、産業保健師はこちらの委員会に参加し、委員会のメンバーと一緒に、安全な職場作りについて意見交換を行います。
3.診療補助を行う役割を担う
診療所を設けている企業で働く産業保健師は、
- 医師の問診の補助
- 採血や注射の実施
- 受付や電話対応などの事務的業務
- 薬剤管理
- 社員への薬の説明
- 薬の在庫確認・発注
等の診療補助を行う役割を担います。稀にレセプト処理や会計処理を行うこともあります。
なお、以下のような「診療補助」はどこの会社で働く産業保健師も実施するでしょう。
インフルエンザワクチンなどの予防接種
社内にて予防接種を行っていることは多く、その場合は医師の指示のもとに、問診・予防接種・抗体反応確認の採血を行います。
予防接種では、インフルエンザワクチンが多く、海外転勤者がいる企業や廃棄物を取り扱う企業などでは、B型肝炎や破傷風のワクチンを打つところがあります。
急病人や怪我人への救急対応
会社内で急病人や怪我人が出た場合に対応することもありますので、日頃からAEDの場所や救急セットの確認をしておきましょう。
また産業医が常駐していない企業で何かあった時には、産業保健師の判断に全てが委ねられます。
まとめ
産業保健師の役割ついて紹介してきましたが、いかがでしたか。
それぞれの会社の規模や特徴によって「健診メイン」「保健指導メイン」「メンタルヘルスメイン」等の違いはありますが、どの業務がメインであってもこの記事に挙げたことが産業保健師の役割です。
そのため、関わることが少ない業務でも理解を深めておくことが大切です。
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