企業に所属する産業保健師のスキルアップ資格に「労働衛生コンサルタント」があります。労働衛生コンサルタントは、労働者の健康水準を向上させるために医学・労働衛生面からサポートする役割を担っており、社員や責任者へ労働衛生に関する教育や、企業内の労働衛生を適性に保つためのシステム構築などを行います。
普段からそのような業務を担っている産業保健師には、労働衛生コンサルタントになることによって自身の仕事の質を深めることにも繋げられます。また、転職の際に有利な資格であることは間違いないでしょう。
そこでここでは、労働衛生コンサルタントの資格を取得するまでの流れや試験対策方法など、保健師がこの資格を取得するのに必要なポイントについて解説していきます。
1.保健師に必要な労働衛生コンサルタントの受験資格と受験申請方法
2.労働衛生コンサルタント試験から合格手続きまでの流れ
3.労働衛生コンサルタントの試験対策方法
まとめ:受験準備をしっかりしておけば必ず取得できる資格!
1.保健師に必要な労働衛生コンサルタントの受験資格と受験申請方法
労働衛生コンサルタントは国家資格であり、この資格を取得するには公益団体安全衛生技術試験協会が実施する労働衛生コンサルタント試験が主催する労働衛生コンサルタント試験に合格しなければなりません。
受験資格は大きく分けて以下の3つに分けられます。
- 理系を専攻した大学を卒業したもの
- 医療系の学部を卒業したもの
- 安全衛生分野に10年以上関わったもの
保健師として受験する場合は3を適用させることになりますので、簡潔に言ってしまえば10年以上の保健師として臨床経験が、受験資格となります。詳しく見ていきましょう。
受験資格は保健師として10年以上の勤務経験があること
厚生労働大臣指定試験期間の公益団体安全衛生技術試験協会によれば、保健師の受験資格については「保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第2条の保健師として10年以上その業務に従事した者」となっています。
つまり、「産業保健師」もしくは「行政保健師」としての臨床経験が10年以上あれば受験資格が与えられることになります。小学校・中学校・高校の「学校保健師(養護教諭)」のように、そもそも保健師資格を保有していない場合は対象外となりますので注意してください。
受験申請の流れについて
労働衛生コンサルタントの受験申請の流れは「受験申請書の準備→受験申請書類を作成→受験申請書を提出→受験票の受け取り」となっています。
STEP1:受験申請書を請求しよう!
「免許試験受験申請書」は同協会本部や各地のセンターにおいて無料で配布されています。なお直接足を運べない場合は郵送で請求することもえきます。詳しくは「受験申請書の請求」を参照ください。
STEP2:受験申請書類を揃えよう
受験申請には以下の書類が必要です。
- 保健師免許証の写
- 経歴証明書
- 試験手数料(6800円)
- 証明写真(36mm×24mm)
受験票が発行された後は試験手数料お返還ができないため注意してください。
STEP3:受験を希望するセンターに受験申請書類を提出
必要書類を揃えたら、受験を希望する安全衛生技術センターへ郵送するか、もしくは窓口の方まで直接提出します。また、受験申請書類は本部では受理されないため、必ず各センターの方へ提出するようにしてください。
なお、申請書類に不備がある場合は受理されませんので、漏れがないようしっかりと確認を行ってから提出するようにしましょう。
STEP4:受験票の受け取りを確認しよう
書類が受理されれば、どんなに遅くても試験の20日前には受験票が届きます。もし20日前になっても届かない場合や、受験票に記載されている「氏名」「生年月日」「住所」に誤りや変更があった場合は速やかに本部の方へ連絡を入れてください。
2.労働衛生コンサルタントの試験実施から合格手続きまでの流れ
労働衛生コンサルタントの試験は、筆記試験と口述試験から構成され、合格までの流れは以下のようになります。
筆記試験(希望するセンターで実施)
↓
試験結果の通知
↓
口述試験(東京・大阪の指定された会場で実施)
↓
試験結果の通知
↓
合格後の手続き(登録申請)
筆記試験は毎年10月の半ばに行われ、その結果は12月の中旬に発表されます。無事に筆記試験が合格した場合、翌年の1月~2月にかけて口述試験が行われ、3月下旬の結果発表で合格していれば晴れて労働衛生コンサルタントの国家資格を取得することができます。
筆記試験の試験科目について
労働衛生コンサルタントの国家試験科目は以下の3つです。
- 労働衛生一般(必須科目)
- 労働衛生関係法令(必須科目)
- 健康管理or労働衛生工学(選択科目)
筆記試験は全て択一問題となっており、科目ごとの得点が40%以上でかつその合計が60%以上であることが合格基準となります。
保健師の場合は必ず「健康管理」を選択!
選択科目についてですが、保健師が受験する場合は必ず「健康管理」を選択することになり「労働衛生工学」は免除となります。
筆記試験結果の通知方法について
合格していた場合は「口述試験受験票(筆記試験合格)」で連絡を受け取り、不合格の場合は「筆記試験結果通知書」で通知されます。なお、厚生労働省のホームページでは合格者の受験番号が掲載されます。
口述試験の合格を持って最終合格となる
口述試験では4段階評価の上位2ランクのものが合格となります。口述試験は受験者をふるい落とすようなものではありません。労働衛生コンサルタントとしての適性や常識が問われる内容となっています。
口述試験の質問に対しては正解があるわけではありませんが、普段からあなたがどのような姿勢で業務にあたっているのかが問われるため「筆記試験の何倍も緊張した!」という声が聞かれます。
実際に口述試験で問われる内容については次の項で詳しく解説していきます。
口述試験結果の通知方法について
口述試験に合格した場合は「合格証」が届き、不合格であった場合は「口述試験結果通知書」でお知らせされます。なお、筆記試験同様、厚生労働省のホームページにも合格者の受験番号が掲載されます。
合格後は登録申請を行う
労働衛生コンサルタントの試験に合格したら次に登録申請を行う必要があります。登録申請の流れは以下のようになります。
登録申請書を取得
↓
添付書類を準備(労働衛生コンサルタント試験合格証の写し)
↓
手数料を納付
↓
試験協会に必要書類を提出
↓
試験協会から登録証が送付される
ここでは重要なポイントのみ記載しておきますので、詳しくは「労働安全・労働衛生コンサルタントの登録申請」を確認ください。
登録申請書の取得方法
登録申請書は試験協会本部から直接受け取る方法と、郵送での請求方法と、同協会のホームページからダウンロードする方法があり、どの方法をとっても構いません。
登録証発行の手数料は20000円
手数料は20000円(非課税)であり、郵便局や銀行で払い込む方法と、協会本部窓口に現金を持参する方法があります。
試験協会に提出する書類について
試験協会に提出種類以下の通りです。
- コンサルタント登録申請書
- 労働衛生コンサルタント試験合格証の写し
- 振替払込受付証明書
上記の書類を郵送もしくは本部窓口に直接提出し、書類に不備がなければ2週間程度で登録証が発行されます。
3.労働衛生コンサルタントの試験対策方法
労働衛生コンサルタントの試験の合格率は約30%であり、難易度は中程度とされています。試験内容自体は産業保健師などが普段から関わっている業務と関連が深いものばかりであり、10年以上ものキャリアがある保健師であれば、試験の難易度はそう高くないようです。
ただし、試験に受かるためにはいくらキャリアのある保健師であっても対策をしっかりと行っておく必要があります。
筆記試験の試験対策はひたすら問題集を解く!
筆記試験対策としては、ひたすら問題集片手に覚えていくこと無難なようです。実際に試験を受けた保健師からは「普段扱う法令などもかぶっているため、あまり勉強自体に苦労はなかった」との声聞かれています。
必要勉強時間は、2~4ヶ月ほど集中的にやれば何とかなることが多いようです。また、保健師資格の他に衛生管理者の資格を保有している人はさらに基礎知識ができているため、もっと少ない勉強時間でも問題ないかもしれません(衛生管理者については保健師のスキルアップ資格!第一種衛生管理者の役割・取得する方法・メリットを確認下さい)。
オススメの問題集は?
労働衛生コンサルタントの資格を取得する保健師らは一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント協会が発行する以下の問題集や参考書を利用し試験対策を行っています。
- 「労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント試験合格への手引き」
- 「労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタント試験問題集」
さらに、参考文献として「労働安全法」に関する書籍を購入する受験者もいますが、それらはインターネットでも調べることができるため、筆記試験対策にはまずこの2冊を準備するようにしましょう。
口述試験対策では想定問答を繰り返し声に出す!
口述試験対策として労働安全コンサルタントの受験者が行っているのが「想定問答を作成し繰り返し声に出して練習する」ことです。口述試験では、質問される内容がある程度パターン化されているため、このようなそう想定問答の活用が有効なのです。
想定問答を作成しスマホや単語帳を活用しながら、隙間時間に覚えられるようにしておきましょう。
口述試験で聞かれる質問内容
以下に口述試験で聞かれる質問内容をまとめていますので参考にしてみてください。
- 労働安全コンサルタント受験の動機
- 労働安全コンサルタントの資格をどう活かすか
- 安全に関して、最近関心のあることは
- 労働災害をなくすためにはどうしたらよいか
- あなたが最近行った安全改善事例
- 安全確保に、物・人・管理のバランスをどう取ればよいか
- あなたの経歴と現在の仕事etc
なお、こういった想定問答集については先に紹介した「労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント試験合格への手引き」にも記載してあります。
口述試験受験準備講習会にも参加しておこう!
日本労働安全衛生コンサルタント協会では、受験者のあつい要望に応え、毎年「労働衛生コンサルタント 保健衛生口述試験受験準備講習会」を開催しています。公式ホームページでスケジュールを確認し、口述試験前に必ず参加しておくことをオススメします。
口述試験を受ける際の注意点
口述試験では、一般的な面接時のマナーをしっかり守ることを心がけましょう。また、行政に対する批判的な意見や、資格取得のみが目的であることなどは絶対に口に出さないようにしましょう。
普段からの業務を真面目にこなすことが一番の試験対策
ここまで、筆記試験対策・口述試験対策について解説していきましたが、一番の試験対策は「普段からの業務を真面目にこなすこと」です。これは、口述試験の内容を見ればよく分かるでしょう。いくら対策を練っていても普段かから仕事が投げやりのようではその姿勢は必ず本番に出てしまいます。
また、筆記試験においても普段活用している知識が活かされるわけですから、仕事と並行しながら試験対策を行うのであればなおさら普段の業務に真摯に取り組むようにしましょう。
まとめ:受験準備をしっかりしておけば必ず取得できる資格!
保健師が労働衛生コンサルタントの資格を取得する際に必ずおさえておきたいポイントは以下となります。
- 受験するには保健師として10年以上の臨床経験が必要
- 資格取得までにかかる費用はトータルで26500円
- 受験~登録書の発行まで最低でも半年はかかる
- 試験勉強必要時間は2ヶ月~4ヶ月程度
- 試験は筆記試験と口述試験で構成されている
労働衛生コンサルタントの資格は、日頃から保健分野に関わっている人達にとってはすでに基礎知識があるため、そこまで難易度は高くありません。言い方を変えれば、受験準備さえしっかりしておけば必ず取得できる資格でもあるのです。
そのため、保健師としての臨床経験を10年以上積んでいるのであれば、1つの転機としてぜひ受験してみることをオススメします。資格取得を機会に、仕事に対する取り組み方が変わり、新たなステージに立てる可能性もあるはずです。
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