電車やバスなどに貼られている「青年海外協力隊」のポスターにひかれ、青年海外協力隊に興味を持ったことのある保健師も多いのではないでしょうか。
青年海外協力隊の保健師は、発展途上国で保健活動を行い住民の健康をサポートしています。看護師などと比較すると募集人数は少ないですが、毎年10名前後の保健師が派遣され貴重な経験をしています。
ここでは、そんな青年海外協力隊の保健師について、実際の役割から、なるための方法について記載していますので、国際支援舞台に興味のある保健師はぜひ参照ください。
目次
1. そもそも青年海外協力隊とは?
2. 青年海外協力隊の保健師の役割と派遣期間
3. 青年海外協力隊の保健師なるための条件について
4. 青年海外協力隊への応募~派遣までの流れ
まとめ:よくよく検討した上で応募へ!
1.そもそも青年海外協力隊とは
青年海外協力隊とは、独立行政法人国際協力機構(JICA)による海外ボランティア派遣制度です。保健分野の他にも、「計画・行政」「公共・公益事業」「農林水産」「鉱工業」「エネルギー」「商業・観光」「人材資源」「社会福祉」の分野で計120職以上のボランティアスタッフが活躍しています。よって、活動内容は多岐に渡りそれぞれの職種の特徴を活かしながら展開されています。
なお、保健師が関わる保健分野については、保健師・看護師・助産師・薬剤師・栄養士・臨床検査技師・診療放射線技師など計17職種のスタッフが活躍しています。
青年海外協力隊の活動目的について
青年海外協力隊は以下の3つを活動目的としています。
- 開発途上国の発展と復興に貢献する
- 途上国との友好親善、相互理解を促進する
- ボランティア経験の社会還元
これらの活動指針を基に、青年海外協力隊は88ヶ国に及ぶ国々に対し、計42094名のボランティアスタッフを派遣し実績を残してきました。(2016年10月31日現在)
青年海外協力隊の活動内容の実際
青年海外協力隊と言えば、ポスターなどの影響から「アフリカ諸国での井戸掘り」「青空教室での学校教育」といったようなイメージが強いのでないでしょうか。もちろんそのような活動も実際に行っていますが、場面を変えればPCインストラクターが技術支援を行うことなどもあり、テクノロジーの分野でも積極的に活動しているのです。
このように、人々の生活に関わる「全て」の事業に携わっているのが、青年海外協力隊の最大の特徴とも言えます。
青年海外協力隊の気になる給与事情について
青年海外協力隊のスタッフはボランティアスタッフですが、現地生活費・住居費・交通費は負担されます。また報酬として、現地滞在中は毎月約85000円が支払われます。
2.青年海外協力隊の保健師の役割と派遣期間
青年海外協力隊の保健師は、日本で言うところの「行政保健師」と同様の役割が求められます(学校保健の分野に関しては養護教諭の役割が求められます)。また、実際の細かい仕事内容については、どのプロジェクトに参加するかで変わってきます。
以下に、青年海外協力隊の保健師が実際に担ってきた役割についてまとめています。
- 健康増進活動、生活習慣病予防のための各種活動
- 公立保健所で母親学級や定期栄養指導
- 乳幼児の発達検査の実施と普及
- 学校における健康診断プログラムの普及活動
1つずつ詳しく見ていきましょう。
健康増進活動・生活習慣病予防のための各種活動
派遣された地域の保健所やヘルスケアセンターのスタッフと共に、地域住民の健康増進活動・生活習慣予防活動にあたります。その際には、保健所などで健康教育のワークショップを行うこともありますし、村内の自宅を訪ねて往診することもあります。また同時に、これらの保健所やヘルスケアセンターの広報活動も行っていきます。
現地人のスタッフにも教育を行う
青年海外協力隊から派遣された保健師は上記のように地域住民に対するアプローチだけではなく、現地人スタッフの教育も行っていく必要があります。なぜなら最終的には、青年海外協力隊のスタッフがいなくても、現地の人達だけで高水準の保健活動を行っていけるようにしなければならないからです。
利用頻度が低い保健センターの活性化を担う
保健師は、利用頻度が低い保健センターの活性化に関するプロジェクトで募集されることもあります。このプロジェクトに参加した保健師は、住民保健委員会と協働しながら出張予防接種・家庭訪問を行い、センターの利用率向上につとめていきます。
公立保健所における母親学級や定期栄養指導
青年海外協力隊が派遣されるような貧困層の多い地域では、乳幼児死亡率が高く、母子保健のへの支援が緊急の課題となっています。その背景には、母親自身が「子供の発達」に対して無知であることが原因として挙げられます。
そのため、保健師は栄養士と協力しながら、母親達に対し定期栄養指導を実施する他、母親学級を通して過程における子どもへの働きかけや遊びについてアドバイスを行っていきます。
乳幼児の発達検査の実施と普及
乳幼児のそれぞれの月齢・年齢に合わせた検査を実施します。また、治療が必要な子どもの発見のためのスクリーニング方法や適切な発達検査を行うための環境整備に関するアドバイスを現地のスタッフに普及していきます。
学校における健康診断プログラムの実施と普及活動
学校分野の実務経験のある保健師(もしくは養護教諭)は、学校保健分野のプロジェクトに参加することができます。貧困層の地域にある学校は予算の関係上、学校保健師を配置できないところが多く、健康診断すらままならない状況です。そこで保健師は、そういった学校で実際に健康診断プログラムを実施し、現地の教員らに方法を伝授していくことになります。
保健師の平均派遣期間は「2年」
青年海外協力隊の公式ホームページによれば、派遣希望期間は「2年」とされています。なお、その間、休暇の範囲内であれば1回だけ一次帰国することもできます。基本的にリタイアすることは許されないため、よく考えた上で応募を決めましょう。
3.青年海外協力隊の保健師なるための条件について
保健師の応募資格条件については、参加するプロジェクトによって異なりますが、通常以下の条件が求められることになります。
- 日本国籍保持者
- 保健師免許
- 3年程度の実務経験
- 大卒(同僚と同等の学歴が必要)
- 20~39歳であること
- 英検3級もしくはTOEICスコア330点以上
ここに書いてあること以外にも現地のニーズを把握できる統計力、さらに活動報告をまとめる文章力などは、青年海外協力隊の保健師として最低限持っておきたいスキルです。なお、現職の公務員保健師はNGOが要請する派遣先には応募できませんので、注意してください。
3年以上の実務経験は必須!
母子保健に携わるなら母子保健分野での実務経験・地域医療に携わるなら行政保健師としての実務経験・学校保健に携わるなら学校分野での実務経験が必要であり、いずれにしても3年程度は経験を積んでおかないと、現地で使い物にならない可能性があります。
39歳までしか応募できないことも忘れないで!
基本的に、青年海外協力隊は20~39歳までのボランティアスタッフしか採用していません。そのため、実務経験をしっかり積むことも大切ですが、結婚・妊娠などのライフイベントなども考慮しながら計画的に行動していくことをオススメします。
大卒が求められるのは他職種と協働するから
青年海外協力隊は、大卒を条件に入れる理由として、「同僚と同等の学歴が必要なため」としています。現地に派遣された保健師は、様々な職種のボランティアスタッフと働くことになり、中には非常に「高学歴」な人もいます。そういったスタッフとも円滑にプロジェクトを進めていくために、「大卒」であることを求めているのです。
全てのプロジェクトで求められるわけではない
「大卒」の条件は、全てのプロジェクトに当てはまるわけではありません。そのため、専門卒の保健師であるならば、こういった条件がないプロジェクトに応募するようにしましょう。
レベルの高い英語力は求められていない
青年海外協力隊は、ボランティアスタッフの応募に際し必要となる語学力は「中学校卒業程度(英検3級もしくはTOEICスコア330点以上)」としています。
そこまで高い英語力が必要ないことは意外にも思われるかもしれませんが、これは、派遣される国はどこも英語ではなくそこの現地語がメインとなるためです。
保健師としての基礎力を高めておこう
青年海外協力隊の保健師には、現地のニーズを把握しながら、健康推進プロジェクトを進めていくわけですから、「保健師としての基礎力」が常に求められます。保健師の基礎といえば「統計力」と「企画力」と「運営力」です。
環境が整っていない発展途上国などで働くのであれば、なおさらこの3つのスキルを高めておく必要があることを念頭において、日々の業務にあたりましょう。
日本にいる時よりもコミュニケーション能力が求められる!
青年海外協力隊になろうとする保健師で「コミュニケーションが苦手」という人はほとんどいないしょう。しかし、実際に派遣されるとなれば、そこにいる現地人を含め、育ってきた環境が全く違う人達と連携していくことになりますから、日本にいる時よりもコミュニケーション能力が求められることは間違いありません。
4.青年海外協力隊への応募~派遣までの流れ
ここでは、実際に青年海外協力隊への応募~派遣までの流れについて大事なポイントをおさえながら解説していきます。なお、募集は毎年2回、春と秋に行われます。応募受付期間はそれぞれ40日間程度となっています。
実際の応募~派遣の流れをまとめると以下のようになります。
応募書類の記入
↓
一次選考(書類選考)
↓
一次合否通知
↓
二次選考
↓
二次合否通知
↓
派遣
二次試験まで通過し、その後、所定の研修を終えれば晴れて青年海外協力隊の保健師として派遣されます。
STEP1:応募書類に記入して本部に郵送
青年海外協力隊の応募に必要な「応募者調書」「応募用紙」「職種別試験解答用紙」「語学力申告台紙」「問診票」を、全国で開催される「体験談・説明会」会場かJICA国内拠点、もしくはホームページ上で入手し必要事項を記入します。その後、封筒に「応募書類在中」と記入し、所定の住所へ郵送します。
応募書類を元に一時選考(書類選考)が実施
応募書類を元に事務局で、技術審査・語学力審査・健康審査を行い、一次選考が行われます。その後、自宅に一次選考の合否結果が郵送されます。なお、合格者には、二次選考の詳細も同封されていますので、併せてご確認ください。
STEP2:都内の会場へ二次選考を受けにいく
二次選考は東京都内のJICAが指定した会場で実施されます。内容は面接と問診のみです。なお、面接に関しては、ボランティアスタッフとしての適性や保健師としての人間性を確認する観点から行われ、問診に関しては必要な型のみとなっています。
対象者は二次選考にかかった旅費を負担してもらえる
二次選考の会場は、東京都内のみとなっています。そのため、海外在住の方など対象者は、旅費を負担してもらうことができます。詳しくは、応募の際に事務局の方へご確認ください。
合否に関わらず結果が郵送される
二次選考の結果は合否に関わらず自宅に郵送されます。なお、合格者には、今後の詳細スケジュールも同封されていますので併せてご確認ください。
STEP3:技術補完研修と健康診断を受ける
晴れて二次選考に合格した保健師は、その後、技術補完研修と健康診断を受けます。技術補完研修は3日にわたり、地域看護研修を受けることになります。
また、健康診断は各自で受け、期日までに結果を郵送することになります。また受入国によってはHIVやC型肝炎抗体検査、梅毒等感染不全等の結果の事前提出が求められ、さらに対象者は黄熱やはしか(麻疹)の予防接種を受けることもあります。
STEP4:派遣前訓練を受ける
派遣前訓練は約70日間にわたり行われ、現地での「活動使用言語」などを中心に展開されます。なお、派遣前訓練は合宿形式であり、全日程参加することが求められます。この派遣前訓練が終わると、ようやく現地へ派遣されることになります。
まとめ:よくよく検討した上で応募へ!
青年海外協力隊の保健師に求められる役割、また実際になるための方法についてご紹介させていただきました。医療従事者であれば誰しも海外の国際医療支援舞台に憧れを持つことがあるでしょう。青年海外協力隊であれば、その他の国際医療支援団体と比較して、派遣までの敷居は比較的低い方です。また安全性も高いため、安心して任務にあたることもできる上に、日本ではできない貴重な経験もすることができます。
しかし、派遣期間は基本的に2年間に及ぶこと、また派遣期間は日本で勤務していた時と比較すると格段に給与も下がりますので、よくよく考えた上で後悔のない決断をくだすようにしてください。
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