「うつ病」を代表としたメンタルヘルス問題を抱えている社員は年々増え続けており、社会問題の1つとなっています。そうした煽りを受け、昨今では多くの企業から「産業カウンセラー」への注目が集まっています。
産業カウンセラーは、言いかえれば「働く人専門」のカウンセラーです。最近では、企業で働く産業保健師のスキルアップ資格として、多くの保健師が資格を取得しているため、気になっていた人も多いでしょう。
そこでここでは、保健師の方にぜひ知っておいていただきたい、産業カウンセラーの役割や資格取得方法、また取得後のメリットについて解説していきますので、興味のある方はぜひ一読ください。
1.そもそも産業カウンセラーとは?
2.保健師が産業カウンセラーの資格を取得するための条件
3.産業カウンセラー試験の受験方法と試験対策について
4.保健師が産業カウンセラーの資格を取得するメリット
まとめ:産業保健師としてやっていくなら取得の価値あり!
1.そもそも産業カウンセラーとは?
産業カウンセラーとは、カウンセリングや研修を通じて、企業が抱える「メンタルヘルス問題」を解決するサポートをする人です。なお、産業カウンセラーは「一般社団法人 日本産業カウンセラー協会」が認定している資格です。
企業で働く産業保健師は、常日頃から社員のメンタルヘルスに配慮していますが、こういった産業カウンセラーの資格を取得することはスキルアップにも繋がるはずです。
ここではまず、そんな産業カウンセラーの概要について解説していきます。
企業が抱える「メンタルヘルス問題」を全面サポート
産業カウンセラーはメンタルヘルス問題を抱える「個人」にだけアプローチするのではなく、社員全体がメンタルヘルスの不調を抱えないよう取り組んでいきますから、実際の業務内容は以下のように多岐に渡るのです。
- 社員全体のメンタル不調の予防
- メンタル不調者への直接的な介入
- 職場復帰への援助
- 働く人々のキャリア教育およびキャリアカウンセリング
それぞれ詳しく見ていきましょう。
社員全体のメンタル不調の予防
「ストレス社会」と言われる現代は、誰もがメンタルヘルスを侵されてもおかしくない状況にさらされています。つまり、誰もがうつ病などのメンタルヘルス問題を生じるリスクを持っているのです。そういった状況を踏まえ、産業カウンセラーは社員全体が自身のメンタルヘルスに目を向けコントロールをしていけるよう、研修や講話などを通じ啓蒙活動を行っていきます。
メンタル不調者への直接的な介入
産業カウンセラーは、産業保健師や産業医と連携しながら、心の問題を抱えてしまった社員に対しカウンセリングを通して問題解決をはかっていきます。
職場復帰への援助
うつ病などで一定期間、休業してしまった社員が職場復帰をはたすのは生半可なことではありません。なぜなら本人だけではなく周囲もまき込んでいかなければならないからです。そのため、産業カウンセラーはスムーズな職場復帰が果たせるよう双方にアプローチしていくのです。
キャリアカウンセリングの実施
働く人の誰もが、人生の転機を迎えるごとに、今後のキャリアについて「自分はどうあるべきなのか」を模索することになります。そういった局面にある社員に対し、適切なキャリアに進めるようサポートしていくのも産業カウンセラーに求められる役割です。
産業カウンセラーの資格は3種類ある
産業カウンセラーには、産業カウンセラー(初級)、シニア産業カウンセラー(中級)、キャリア・コンサルタント(上級)の3種類の資格があります。
なお、シニア産業カウンセラーとキャリア・コンサルタントの資格を得るには、産業カウンセラーとして経験を積むことが必須です。そのため、保健師がこの資格を取得する場合はまず、初級の「産業カウンセラー」を目指すところから始まります。
シニア産業カウンセラー(中級)について
シニア産業カウンセラーは、産業カウンセラーよりも高度な知識を持ち、企業従業員全員に対してメンタルヘルスを良好に保てるようアプローチしていきます。
なお、シニア産業カウンセラーになるには、産業カウンセラー(初級)として4年以上仕事をした経験などが求められます。
キャリア・コンサルタント(上級)について
産業カウンセラーが認定する「キャリア・コンサルタント」は、カウンセリングや研修などを通じて、現実に仕事を選択する際の相談や個人のキャリア開発の援助を担っていきます。
このキャリア・コンサルタントになるためには、産業カウンセラーとして13年経験を積むか、シニア産業カウンセラーとして4年の経験を積む必要があります。
2.保健師が産業カウンセラーの資格を取得するための条件
保健師が産業カウンセラーの資格を取得するには、日本産業カウンセラー協会が主催する「産業カウンセラー養成講座」を受講し修了する必要があります。
養成講座は7ヶ月~12ヶ月で修了し費用は通信制の場合だと205,200円、通学生の場合は226800円です。また、通学生の場合は昼間コースと夜間コースが用意されています。
以前は看護師・保健師であれば、無条件に産業カウンセラーの資格を取得することができましたが、現在は規則が改定しており上記のような条件が設けられていますので注意しましょう。
産業カウンセラー養成講座を受講する
産業カウンセラー養成講座は成人に達した者であれば誰でも申し込むことができます。そのため、すでに保健師資格を保有している人は無条件に申し込むことができます。
先にも述べた通り、養成講座は通学生と通信制がありますので、自分の都合に合った方を選択するようにしてください。
なお、通学生の講座期間は4月~11月であり、通信制は11月から翌年の9月までが講座期間となります。講座内容はいずれも「理論講座」「面接実習」「在宅研修」「自主学習」で組まれています。
最短の方法で資格を取得したいなら「通学生」
通学生の場合は約7ヶ月で講座が修了するため、最短の方法で資格を取得したい人はこちらを選択するようにしましょう。申し込みは1月から始まり、4月に開講します。
通学生の生徒は「土曜コース」「日曜コース」「平日コース(昼間・夜間)」の3つからコースを選ぶことができるため、自分のライフスタイルに合ったコースを選択します。
自分のペースで進めたいなら「通信制」
通信制の場合、講座を修了するまでには12ヶ月かかってしまいますが、通学生とは異なり面接実習以外は自宅で学習を進めることができるので、自分のペースで進めたいなら「通信制」がオススメです。なお、申し込みは、8月から始まり11月に開講します。
通信制は通学生と同等の学習内容が受けられる上に通学生と比較すると費用も21600円安くなるのもポイントです。
養成講座の修了年度に限らず受験は可能
産業カウンセラーの試験は、一度修了してしまえば、その修了年度に限らず受験は可能です。通学生も通信制も11月するため、双方とも2ヶ月の1月の試験を受けることができますが、自分の都合に合わせ次年度などに受験することも可能です。
養成講座の修了要件は?
養成講座を修了すれば、晴れて産業カウンセラーの受験資格を取得することができます。なお、修了するためには、欠席が19時間未満であることと、在宅研修課題をすべて提出し、A~Dの4段階評価においてAまたはBの評定を受けることが要件となります。
3.産業カウンセラー試験の受験方法と試験対策について
産業カウンセラー養成講座を修了した人は、1月に行われる産業カウンセラー試験の準備に取り掛かります。まず、日本産業カウンセラー協会から受験要項を請求し願書を出願期間に提出して試験対策に取り組んでいきます。
試験は1月に2週間にわたり行われ、1週目は学科試験・2週目は実技試験となっています。なお、養成講座受講中に面接が一定のレベルに達していると評価された場合は実技試験が免除となります。
産業カウンセラー試験の受験要項を請求する
受験要項配布期間は10月~12月であり、その年の講座受講者であれば講座中に配布されます。去年度の講座受講生などの場合は、協会本部や支部事務所で受け取るか、郵送による請求手続きを行います。詳細については
日本産業カウンセラー協会のホームページ「産業カウンセラー試験」を参照ください。
受験要項に基づき願書を提出
受験要項を確認したら、それに基づき願書を作成し提出します。出願期間は大体11月中旬からの2週間以内であるため、必ず期間内にするようにしてください。
産業カウンセラーの試験対策について
産業カウンセラーの学科試験合格率は約75%、実技試験の合格率は約86%と非常に高い数値であり、学んだことをしっかりと学習し、演習問題と過去問題を繰り返し解いておけば「一発合格」するのはそう難しくないようです。
また、実技試験対策については、合否を判定する試験管の印象を良くするような工夫を心がけておきましょう。
学科試験対策について
産業カウンセラーの試験対策に使用する問題集は今のところ「産業カウンセラー試験問題集 厳選100選」しかないようです。この問題集は2005年~2007年に出題された問題を中心に構成されており、過去問対策には最適です。こちらと講座のテキストを併用しておけば学科試験対策は万全です。
実技試験対策について
実技試験対策では、一般的な面接マナーは絶対に守るようにしましょう。また、具体的な対策としては、想定問答を用意しておき、試験前に繰り返し自主トレーニングを繰り返しておくようにしてください。また、どうしたら合格できるのかを試験管目線で考えてみると、自ずと自分が対策すべきポイントが見えてくるはずです。
4.保健師が産業カウンセラーの資格を取得するメリット
産業カウンセラーの資格は、すでに企業で働いている産業保健師にとっても、またこれから産業保健師になろうとする人にとってもメリットがあります。
また、産業カウンセラーの資格は、この資格単体しか持っていないとなるとそこまでメリットはありま、保健師・看護師が+αで持っておく分には必ず威力を発揮してくれるはずです。詳しく見ていきましょう。
カウンセリングのスキルを磨き日々の業務に活かすことができる
産業カウンセリングの資格を取得する際は、カウンセリングの基本である「傾聴」をベースに徹底的に学ぶことになります。そのため、普段から企業のカウンセリング業務を担っている保健師であればなおさら、そのスキルをさらに磨き、日々の業務に活かすことができるのです。
そのため、保健師面談を積極的にされている方は特にオススメの資格であるとも言えます。
転職の際には重宝される資格となる
企業側からメンタルヘルスへの注目が集まっているのは確かですが、それでも「産業カウンセラー」の資格だけを持っている人が新たに採用されるケースはほとんどありません。
しかし、企業が産業カウンセラーのスキルを持っている人材を求めていることは確かです。そのため、産業保健師の応募者がこの資格を持っていれば、企業としては重宝せざるをえないのです。
もちろん、これだけが決め手となるわけではありませんが、ただでさえ募集枠が限られている産業保健師を目指す際には、取得しておいて損はないはずです。
比較的に簡単に取得することができる
先にも述べた通り、産業カウンセラーの資格取得の難易度はそこまで高くありません。費用も20万程度ですし、きちんと試験対策に取り組めばかなりの確率で合格することができます。そのため、産業保健師として確実にスキルアップやキャリアアップをしたい人、また産業保健師の転職を少しでも有利に運びたい方はぜひ検討してみてください。
まとめ:産業保健師としてやっていくなら取得の価値あり!
産業カウンセラーは、企業で働く社員のメンタルヘルスを支えるプロフェッショナルです。特に、常日頃からメンタル不調を抱える社員と接している産業保健師にとっては、この資格を取得する必要性はひしひしと感じているのではないでしょうか。
いずれにしても産業保健師としてやっていくのであれば、メンタルヘルスとは切っても切れない仲にあるわけですから、この仕事でキャリアを積んでいこうとする人にとっては必ず取得の価値があるはずです。
また、資格取得条件となっている産業カウンセラー養成講座については、通学生であっても、忙しい社会人に合わせて様々なコースを用意してくれていますから、いずれにしても働きながら受講することが可能です。双方ともメリット・デメリットがありますので、よく検討した上で自分に合った方を選択するようにしてください。
<この記事が保健師の方のお役に立てたらシェアお願いします。>