保健師の重要な役割のひとつは、患者やその家族、または健診の受診者に対して、生活習慣病の改善を目的とした、保健指導を行うことです。
保健指導のスキルを高めるための研修や勉強会、またはテキストは多くありますが、その中でも大変実用的であり、人気が高く、しかも比較的簡単に取ることができる人間ドックアドバイザーについてご紹介していきます。
1.人間ドックアドバイザーの役割
人間ドックアドバイザーとは、正式名称を人間ドック健診情報管理指導士といいます。
主に健診施設の受診者に対して行う保健指導や、特定保健指導の対象者に実施する積極的・動機付け支援において、人間ドックアドバイザーがそれら実際の業務を展開していきます。
その他、外来患者や入院患者に対して必要な保健指導を行う際にも、十分に力を発揮することでしょう。
保健指導業務を行うスタッフへの指導やアドバイスも行う
もう一つ大切な役割は、保健指導業務を行うスタッフへの指導方法のアドバイスや改善など、指導的な対場になることも求められます。
例えば保健指導を行うスタッフが複数人いる場合には、それぞれの指導技術に差があることは望ましいことではなく誰の保健指導を受けても、それは同じレベルで対象者に提供されるべきです。
そのため指導レベルの均一化を目指し、人間ドックアドバイザーによる保健指導スタッフへの支援が必要なのです。
事務スタッフと連携して健診センターの運営に関わる
人間ドックアドバイザーは、何も保健指導の能力だけに特化した資格ではありません。研修会でも学ぶことですが、健診施設全体の業務の流れについて熟知し、その運営についても重要な役割を持つことが求められます。
そのためにも事務的業務を行うスタッフとも、常に連携をとる必要があり、受診者にとって満足度の高い環境を提供していくことが必要になります。
事務スタッフとの連携が必要な例
人間ドック施設では、健診結果に対し要精査判定が出た場合に紹介状を発行します。
そして人間ドックアドバイザーは、それの返信状況の把握と、必要なら電話やメール等で、受診者に対して状況の聞き取りを行います。その結果未受診であるならば、再度精査受診奨励を行います。
このような一連の作業は事務スタッフの協力も不可欠であり、人間ドックアドバイザーが中心となって推進していくことが望ましいです。
2.人間ドックアドバイザーの資格を取得する方法と注意点
保健師が人間ドックアドバイザーの資格を取得する場合、原則として以下のいずれかの条件を満たしている必要があります。
- 所属している施設が日本病院会または日本人間ドック学会の認定施設である
- 保健師個人が日本人間ドック学会の会員である
勤務先の病院や健診センターが認定施設でない場合、人間ドックアドバイザーの受験申し込みと同時に日本人間ドック学会の個人会員に申し込むことになります。
研修に参加し、認定の登録を行う
人間ドックアドバイザーの資格を取得するには、学会が定めた所定の研修に参加する必要があります。
研修は通常、おもに年に2回、5月と11月に東京や福岡で二日間に渡り開催されます。基礎編と実技編の講座があり、すべての講座を受講した後に、認定証の授与と人間ドックアドバイザーとしての登録を行います。
資格取得自体は難しくないが、研修の内容は非常にレベルが高い
1回の研修会で200名ほどが参加します。研修会の大半は座学と参加者同士でのデモンストレーションであり、取得の難易度的には高くありません。
しかし講義の内容そのものは非常に密度が濃く、生活習慣病の予防を中心とした保健指導の実践を行っている現役の医師が講師を担当しています。
また研修を受ける側も医師の参加が多いために、ボリュームや内容は非常にレベルが高く、実際の業務においても大変有益なものです。
資格取得後は5年毎の更新が必要
看護師や保健師の資格とは異なり、人間ドックアドバイザーの資格は、それを取得した後も定期的に更新の申請をしなければなりません。そうでなければ資格停止となり、人間ドックアドバイザーの名称を用いた活動ができなくなります。
人間ドックアドバイザーは資格取得から5年間は有効であり、その間に日本人間ドック学会が指定するブラッシュアップ研修に2回参加し、その履修証明書を提出する必要があります。
また5年間の資格保有期間の後に2年間の猶予期間が設けられていますので、結局のところ7年間で2回研修に参加すればよいということになります。
資格を取得する際の注意点
人間ドックアドバイザーの資格取得にあたり、注意しなければならないことがあります。それは研修会に参加するための費用についてです。研修会参加費だけで45.000円かかり、それに会場までの移動費用を計上します。
東京近郊に在住なら会場まで行くことは特に問題ないことですが、地方在住者だと東京までの往復旅費、そして1泊または2泊のホテル宿泊が必要となります。
これに加えて、現在働いている職場が人間ドック学会の施設会員であるならよいのですが、そうでなければ施設会員の年会費として研修会申し込み時に30.000円必要になります。
個人会員として参加する場合、10万円程の費用がかかることもある
病院側が年会費を払うならよいのですが、そうでなければ個人会員として6.000円の年会費が必要となります。
そうなると会場から遠方に住んでいる場合には、渡航費、宿泊費、研修参加費、学会費で10万ほどかかってしまうこともあります。
施設側から費用が出る場合は説明が必要
施設側と費用についての負担割合を決める際に、この資格を取得することが施設にとってどのようなメリットをもたらすのか十分に説明が必要となり、自分自身がこの資格を用いてどのような働きを行うのか、また在職する施設で長期間働くという意思を示す必要があるかもしれません。
3.保健師が取得するメリット・デメリット
最後に、保健師が人間ドックアドバイザーの資格を取得するメリット・デメリットについて解説していきます。
メリット(1):保健指導に深みが出る
最大のメリットは、研修で得た深い知識によって保健指導に深みが出ることでしょう。先述したように、研修会の講義内容は一流講師による非常にレベルの高いものであり、多くの新しい知見や最新のエビデンスを得ることができるからです。
また具体的な保健指導の方法について、さまざまな事例や参加者同士のディスカッションなどを通してスキルアップを図ることができます。
そして、ここで学んだことはすぐに明日からの業務に生かすことができ、保健指導の対象者にしっかりと還元することができます。
メリット(2):健診施設機能評価の認定条件となる
日本人間ドック学会では、健診施設に対する機能評価を行っており、この審査に合格し認定施設となることは、すべての健診を行う施設にとって最も高いステータスの一つであるといえます。
そのため審査基準は非常に厳しく、認定のハードルも大変高いものです。そして受審にあたり申請条件が多くありますが、その中の一つとして施設内に人間ドックアドバイザーが最低一人いることが必須となります。
そのため健診施設が機能評価の認定を取得することを目標にしたときに、そのために必要な条件を整備していく中で、この資格の取得をスタッフに促すケースも多いです。
デメリット:更新の度に施設側と費用負担を話し合う必要がある
研修会への参加費用に関すること以外に、デメリットとなりうることは特にありません。
少なくとも健診施設で働いている間はずっと資格を更新していく必要があります。そのため5年毎の更新のたびに施設側との費用負担についての話し合いが必要になる点は、唯一のデメリットと言えるでしょう。
まとめ
日本人間ドック学会が研修・認定を行っている人間ドックアドバイザーは、健診施設を始めとした、さまざまな場面で保健指導業務を行っている保健師に、ぜひ取得してほしい資格です。取得までにそれなりの費用はかかりますが、研修の内容や資格取得のメリットを考えると、十分に費用対効果の高いものであるといえます。
人間ドックアドバイザーは健診施設の保健指導従事者の中で中心的な役割を果たし、各スタッフの指導レベルの底上げと平均化に努め、常に指導的な役割を果たすことが求められます。また施設全体のよりスムーズな運営に携わり、各部署と連携しよりよい健診環境を作り上げていく必要があります。
資格の5年毎の更新を怠らず、常に学んでいくことを続ければ、保健師としての更なるキャリアアップ・スキルアップにつなげることができます。
<この記事が保健師の方のお役に立てたらシェアお願いします。>