家族相談士とは、「家族への心理的な支援のできる専門家」のことです。教育関係者や福祉関係者からはもちろんのこと、病院関係者からの注目も高くなっており、看護師や保健師の中でも資格を取得する人が増えています。
この資格制度は1992年に開設されたものであり、現在「日本家族心理学会」と「日本家族カウンセリング協会」が運営しています。
ここでは、そんな家族相談士の資格について、保健師が取得する際に必ずおさえておきたいポイントを3つ紹介していきます。
1.家族相談士の役割について
まずは家族相談士の役割について見ていきましょう。主な役割は以下の通りです。
- 家族関係の調整
- 健康な家族をつくるための助言、啓蒙活動、指導
最近では、家庭内暴力や虐待などといった問題がよくニュースで取り上げられています。またトラブルが表面化されていなかったとしても、家庭内別居などのように水面下で繰り広げられているものもあります。
家庭内のトラブルは、学校や職場などといった社会にまで影響が及び、ひいては人格形成に悪影響となることも多く、そうした事態を防ぐためにも家族心理士は重要な役割を果たしています。
家族関係の調整を行う
家族相談士は、何らかの「不調和」をきたしている家族やカップルに対し、カウンセリングなどを通して調整を行います。一般的なカウンセリングでは個人に対しアプローチしていくものですが、家族相談士は家族やカップルごとを1つの集合体とみなし、アセスメントを行って適切なアドバイス等を行っていきます。
第三者だからこそ出来るアドバイスがある
家族の中での適切な距離感や関係性は、その家族ごとによって異なります。時には一定期間だけ距離を置いた方が良い時もあるでしょう。また、言葉かけ1つで状況が好転する時もあります。
当人同士だけでは、そうした解決の意図が見出せないこともあるため、第三者である家族相談士が、このような客観的なアドバイスを行うのです。
健康な家族をつくるための助言、啓蒙活動、指導
家族相談士は、以下のようなトラブルを抱える家族に対し、少しでも早く「健康」な状態に運んでいけるよう助言・啓蒙活動・指導を行います。
- 引きこもり
- 家庭内暴力
- いじめ
- 非行etc.
家族の在り方はその人それぞれではあり、いわゆる「常識」とは少しかけ離れていたとしても当人達が満足していれば、他人がどうこう言う必要はありません。
ただし、上記のような健康被害がある場合は他者の助けが必要なことも往々にあり、家族相談士のようなカウンセリングのプロが必要になる時もあるのです。
保健師だからこそできる啓蒙活動がある
保健師はどこの組織に所属していたとしても、大勢の集団に影響を与える存在であるには違いありません。企業の場合は社員への健康教室で、学校であれば保健委員会で、行政でれば市民への無料イベントで、保健師にしかできないアプローチをすることができます。
家族相談士の資格は様々な職種の人達が取得していますが、保健師のように、一度に沢山の人へアプローチできる人は限られています。そのため、家族相談士の保健師が担う役割は大きいと言えるでしょう。
家族相談士からのステップアップで家族心理士になる
資格制度を運営する「日本家族心理学会」と「日本家族カウンセリング協会」は、家族相談士のステップアップ資格として「家族心理士」を開設しています。家族心理士になるためのハードルは決して低くはないのですが、家族カウンセリングを極めたい人にとっては最適な資格だと言えるでしょう。
家族心理士になるために必要な条件
家族心理士になるためには以下のいずれかの条件を満たし書類審査と面接審査に通過する必要があります。
- 家族心理士研修課程修了後、1000時間以上の臨床経験がある
- 修士課程において家族に関する心理・臨床領域における修士号を取得後、1000時間以上の臨床経験がある
- 臨床心理士・認定カウンセラー・シニア産業カウンセラーのいずれかの資格を取得後、1年以上1000時間以上の臨床経験がある
- 家族相談士として2年以上1000時間以上の臨床経験があり、家族心理に関する研究を行っている
どの条件でも、臨床経験は必須になってきます。
2.家族相談士の資格取得方法
家族相談士になるための方法は以下の通りです。確認しておきましょう。
家族相談士養成講座修了する
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資格試験を受ける
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資格認定
まずは、半年間に及ぶ家族相談士養成講座を修了する必要があります。その後、試験が行われるのですが合格率は90%と高めの水準になっています。この試験に合格したのち、資格が付与され晴れ家族相談士として働くことができます。
家族相談士養成講座を受講する
家族相談士養成講座は毎年5~11月の間に21日間にわたり開催されます。曜日は、土曜もしくは日曜に設定されており、働きながらでも通いやすいよう配慮されています。
また、授業は基本的には毎回1コマ(1.5時間)×2の時間割で組まれています。なお、場所は東京と大阪で行われています。申し込みについては、以下の公式ホームページにて確認ください。費用はテキストと教材費込で172,800円です。
- 東京で受験する場合→NPO法人日本家族カウンセリング協会
- 大阪で受験する場合→公益財団法人関西カウンセリングセンター
定員は東京会場が50名、大阪会場が40名と定められていますので、気になる方は早めに申し込むようにしましょう。
養成講座の受験資格は?
養成講座の受験資格については、保健師・看護師・助産師であれば無条件に受けられることができ、他に準備しておくものなども特にありません。
養成講座のカリキュラムについて(領域A:家族と社会)
養成講座のカリキュラムは領域Aと領域Bに分かれており、領域Aのカリキュラムは以下の通りです。
- 家族とは何か
- 親子・きょうだい関係の心理学
- 夫婦関係の心理学
- 家族ライフサイクルと危機管理
- 家族と職場のメンタルヘルス
- 家族と社会問題(虐待・DV)
- 家族と社会問題(いじめ・非行)
- 家族相談士のための法律知識
- 家族相談士の倫理
日本の「家族」の実態や、家族カウンセリングの実践に必要な基礎知識を学ぶ内容となっています。
養成講座のカリキュラムについて(領域B:家族カウンセリング)
次に、領域Bのカリキュラムは以下の通りです。
- 家族システム論
- 家族カウンセリングの理論
- カップル・カウンセリングの理論
- 家族アセスメントの技法と実習
- 家族カウンセリングの技法と実習
- 家族ロールプレイ
- 家族臨床事例
座学が中心であった領域Aと比較すると、ロールプレイを織り交ぜるなどより実践に近い内容となっています。
資格試験を受ける
資格試験は年に1回、2月初旬~3月初旬の間に行われます。筆記試験と面接試験で構成されており、先にも述べた通り合格率は90%であるため、半年間講座で学んだことをしっかりと復習しておけば基本的には合格できるはずです。
11月初旬に試験要綱が発表される
試験要綱は11月初旬に発表され、まずは必要書類を申請する必要があります。12月下旬にその書類審査が行われ、通過した者が試験を受けることができます。
資格が認定されるまでの費用は51,000円
資格が認定されるまでの費用は51,000円です。その内訳は、申請書類請求費:1000円、資格審査料:20,000円、認定登録料30,000円となっています。
講座料金と合算すると、約224,000円かかるため決して安くはありませんが、カリキュラム内容の充実度や将来性を考慮すると投資する価値はあると言えるでしょう。
3.保健師が家族相談士の資格を取得するメリット
保健師が家族相談士の資格を取得するメリットは以下の通りです。
- 問題を抱える相談者へのアセスメント能力が上がる
- カウンセリングスキル向上する
- 今いる職場でのキャリアアップが期待できる
保健師は健康問題を抱える対象者へアセスメントを行い、適切なケアを行うのが仕事ですから、仕事全体のスキルアップできることは間違いありません。また、家族相談士の資格保有者であれば、いずれの職場でも注目集めキャリアアップへの道が開けることもあるでしょう。
問題を抱える相談者へのアセスメント能力が上がる
家族相談士は、本人だけではなく、本人を取り巻く家族の状況も含めてアセスメントできますから、必然的に相談者へのアセスメント能力も上がることになります。それにより、今までよりもさらに本人に適したアドバイスやケアを提供することができるでしょう。
人は1人で生きているわけではなく、特に普段一緒にいる家族とは密に影響し合っています。そのため、相談者の問題を紐解くと、結果的に家族関係に行きつくことも多々ありますから、家族カウンセリングのスキルはある越したことはないのです。
カウンセリングスキル向上する
養成講座では、家族カウンセリングスキルを学ぶことができます。ここでは「家族」と限定していますが、カウンセリングというものの基本は、どの分野においても共通することが多く、家族カウンセリングを通して全体的なカウンセリングスキルも向上させることができるのです。
企業でも学校でも行政でも、保健師には必ずカウンセリングスキルが問われますから、一石二鳥だと思って身に付けておくと良いでしょう。
今いる職場でのキャリアアップが期待できる
家族相談士の資格の需要は高いですが、保健師の中でも取得している人は一部に限られているため、この資格を持っていれば上司からも一目浴びることができ、ゆくゆくはキャリアアップも期待できるでしょう。
もちろん、すぐに給料が上がるようなことは考えづらいですが、将来を見据えた場合、取得しておいて損はないはずの資格です。
まとめ:保健師としても社会人としても有意義な資格
行政で働くにしても学校で働くにしても企業で働くにしても、必ず「家族」の問題を抱えている人と接することになります。そのため、家族相談士は保健師にはぜひ取得していただきたい資格の1つです。
また、家族相談士の講座を通し、家族の在り方を見直すことは、仕事面だけではなくプライベート上でも役立つことがあるでしょう。
費用も時間もそれなりにはかかってしまいますが、1人の保健師としても1人の社会人としても有意義な資格であるため、これを機会に取得を検討してみてはどうでしょうか。
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