企業の工場で働く産業保健師の主な役割は、労働者が働いている環境を改善することです。工場で勤務する労働者は、決して清潔だとは言い切れない過酷な環境の中で、時には長時間無理な姿勢を強いられたりしながら働いています。彼等が健康で働き続けるためには、工場保健師の働きかけが不可欠なのです。それでは、実際に工場で働く産業保健師が、労働者の職場環境を改善するためにどのような取り組みを行っているのかを見ていきましょう。
また、現在工場(産業)保健師への転職を検討されている方は、このような実際の保健師の取り組みを知ることは実際の面接などでも優位になることを覚えておいてください。面接のポイントについては産業保健師の面接でライバルに差をつけるためのポイント3つの記事をご参照ください。
1.保健師なら誰もが知っている「3管理体制」について
保健師の資格を取ったことがある人なら必ず「3管理体制」について一度は耳にしたことがあるでしょう。工場保健師は常にこの3管理体制に基づいて行動をしていく必要があるため、ここでは今一度この3管理体制についておさらいをしておきましょう。3管理体制の項目は以下となります。
- 作業環境管理
- 作業管理
- 健康管理
工場保健師は、労働者が働く環境(場所)・実際の作業の様子・労働者1人1人の健康状態という3方面から、労働環境改善に取り組んでいかなければなりません。
作業環境管理とは
労働者の健全な産業管理を阻害する有害因子(空気の汚れ・臭気・冷暖房条件・照明の具合など)を把握し、それら1つ1つが労働者にとって最適なものとなるよう、アプローチしていきます。また、作業部屋の広さやレイアウトなどの作業空間についてもチェックしていく必要があります。
作業環境管理の実践例
工場内で行われている作業環境管理の実践例をまとめると以下のようになります。
- 高所作業者に冷房装置を設置
- クレーンの運転室に空調設備を設置
- 外の作業場に移動式日除け屋根を設置
- プレス機械を防音パネルで覆う(防音対策)
- 作業場の照度をアップ(照明対策)
- 天井を明るいものに改装(照明対策)
工場で働くということは、場合によっては命の危険と隣り合わせでもあります。だからこそ、労働者の作業環境を安全なものに整備していくことが求められるのです。
作業管理とは
労働者が、身体に無理がなく働けるような姿勢作りを提案しサポートしていきます。作業管理の対象となる作業は、重い荷物を運ぶような重筋作業、高温多湿にさらされる高温・温熱作業、過度な緊張状態が要求される緊張作業、腰部・頸部に負担がかかる不良姿勢作業などがそれにあたります。
作業管理の実践例
作業管理について実際に工場内で行われている実践例をまとめると以下のようになります。
- タワークレーンにテレビカメラを設置
- 特定の作業をロボット化
- 炉前作業に送気マスクを使用
- 台車を利用して移動作業を軽減
- 高さが自在化できる作業台を導入(腰痛対策)
- 自動洗浄機の導入で工場内から前屈姿勢の作業を追放(腰痛対策)
工場内は身体を使う作業が多いからこそ、できるだけ作業者の身体を痛めつけないような工夫や配慮が必要となってくるのです。
健康管理とは
工場保健師は、工場内に務める作業者全員の健康状態を定期健康診断などを通して把握しておく必要があります。そして必要に応じ、健康状態に問題のある労働者に対しアプローチを行い、労働者全体の健康状態を支えていきます。
2.職場生活支援施設・疲労回復支援施設について
工場保健師は上に挙げたような3管理体制のルールにのっとりアプローチをしていくだけではなく、工場保健師1人1人のセンスが求められることも忘れてはいけません。労働者の特性をふまえた上で、彼等の環境をよりよくしていくために独自の視点で考え実践していかなければならないのです。その一環として、職場生活支援施設と疲労回復支援施設の設置が挙げられます。
作業場以外にも目を向け労働者のストレス軽減をはかる
工場保健師のセンスが一番問われるのは、作業場以外の場所かもしれません。一見すると、工場保健師が労働差に対しアプローチする場は作業場内のみだと思われてしまうかもしれません。しかし、工場で働く労働者の健康を支えていくためには作業場以外の休憩所や洗面所・トイレにいたるまで工夫していく必要があるのです。
職場施設支援施設の具体例
近年では、全国的に職場全体を快適な空間にしようという動きが強まり「職場施設支援施設」と「疲労回復支援背施設」に力を入れている企業が増えているのです。まずは、職場施設支援施設として実際に整備されている事例についてまとめています。
- 洗濯機と移動可能型の乾燥機の設置
- 浴室及びシャワールームの設置
- 洗面所の整備
- ウォータークーラーや自動販売機の設置
- 女性用の個人ロッカーを設置
- 現場用移動トレイの接地
- 廊下に談話コーナーを設置
- 食堂を広く改装etc
疲労回復支援施設の例
疲労回復支援施設の例をまとめると以下のようになります。いかに、現代病であるストレス軽減に企業が力を入れているのかが分かります。
- 屋内外に運動施設を設置
- 工場地帯に植樹し公園化をはかる
- 作業場の一部に憩いの場を設置
- 明るく広い休憩室に改善
- 工場内のライン変更に合わせ移設できる休憩所
- リフレッシュカーの導入
- 24時間利用可能なシャワー室を設置
工場のは保健師は実際に現場へ足を運んで労働者達と積極的にコミュニケーションをとりながら、彼等がより快適により楽しく過ごせるような環境改善を提案していくことが求められます。
3.労働者のニーズを把握する保健師の動き方
労働環境を改善していくためには、そこで働いている労働者のことをよく知らなければならないのは当然のことです。しかしそれは、健康診断の結果を見ているだけでは労働者のリアルなニーズは分かりません。実際、現場で働いている工場保健師の人達はどのように労働者のニーズを把握しているのでしょうか。
メモ用紙を片手に歩き回る
工場保健師が労働者のニーズを把握するためには、まず第一に「職場巡視」です。保健師は常にメモを片手に、自分の足で歩き、自分の目で現場を見て、自分の耳で労働者の声を聞く必要があるのです。もし可能であれば、現場を巡視する際は現場の管理者に一緒に来てもらうのがベストでしょう。その方が、一見するだけでは分からない職場の細かい状況まで知ることができます。
巡回の時はどこを見たらいいの?
いきなり「巡回」と言われても、いざやってみるとなると一体どこへ目をつければ労働者の環境改善に繋げられるアプローチができるのか分らないと思います。そのため、特にまだその職場に慣れないうちは、常に「どこを改善したらここで働く労働者のQOLを向上させることができるのだろか」という視点を持っておくこで細かいニーズにも気付くことができます。
また、職場巡回をする際はつい悪い点ばかりに目がいきがちですが、同時に良い点も見つけるようにすることが必要です。良い点も悪い点も両方含めてフィードバックすることは、保健師が担うべき健康教育の一環にもなります。
作業中の労働者に話しかけるポイント
巡回をしていると、作業者に直接声をかけ作業の手順や意味などについて確する必要が出てくると思います。しかし、工場にいる作業者は非常に危険度が高い機械を扱っているケースが多いため、話しかける際はタイミングを充分みはからう必要があります。
まとめ
このページでは、工場保健師の一番重要な役割である「労働環境改善」「快適な職場づくり」について焦点をあてて説明していきました。日本を支える工場の労働者達をサポートする産業(工業)保健師の仕事は非常にやりがいがあります。工場の仕組みなどについて様々勉強していかなければならないのは確かですが、結果的に日本全体を支える大事な仕事であることは間違いありませんから、多少苦労してでもチャレンジしてみる価値はありそうです。
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[…] 「産業(工場)保健師の大事な仕事!「労働環境改善」について」の記事に更に詳しく記載してありますので、ぜひ見てみてください。 […]
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